写真を撮影した薗部さんは、戦争中より写真に関わり戦後からは写真家として主に民衆の光景を撮影する活動を続けていたということです。
この本は、その薗部さんが昭和20年の戦後すぐから、昭和30年代まで撮影してきた写真をまとめたもので、民俗学者の神崎さんが文章を加えています。
私は昭和29年の生まれですので、この本の写真に写されている中でも少し遅い時代のものの、乳幼児がちょうど同じ年頃です。
今の、シャレた小ぎれいな服を着た子供たちとはまったく違い、粗末な服装の人々が見られます。
しかし、私にとってはそのような光景の方に懐かしさを感じてしまいます。
また、その当時の働き盛りの壮年者、そして子育てに懸命の母親たちは、ちょうど私の両親の年代に当たります。
特に、国電のひどいラッシュの様子や銀座や浅草の繁華街の様子など、父親が居てもおかしくない時代の写真ですので、どこかに見えないかと思ってしまいます。
昭和20年代の写真では、東京の真ん中、港区や墨田区といったところでも、今では高層マンションやオフィスビルが立ち並ぶあたりに、木造の民家が並び子供が路地で遊んでいる光景が見られます。
また、東京だけでなく日本各地の写真も紹介されており、唐津や奈良県五條市の光景など、まるで江戸時代からの町並みのように感じてしまいます。
それにしても、東京だけでなく全国各地の写真に、実の多くの人々が写っていること。
もちろん、写真家が人を動員して集めたはずもありませんから、日常的にこれほど多くの人が歩いていたのでしょう。
そのかわり、自動車はほとんど見られません。
路地で多くの子供たちが遊んでいます。
ただし、昭和30年代の写真になると東京中心部ではかなりの数の自動車が見られます。
戦後の復興というものが感じられる時代です。
映画館が軒を連ねる繁華街で、そこそこ広い道を埋め尽くす人々。
昭和30年5月に、埼玉県浦和市の浦和駅で通勤風景を撮影した写真があります。
ちょうどその頃は我が家は南浦和にあり、私の父は南浦和駅から東京まで通勤していました。
旧型電車に多くの勤め人や学生が殺到しています。
父もこのような状況で通勤していたのでしょう。
もはや年寄りの頭の中にだけあるような世界の光景でした。