インド文化圏で生まれた仏教がアジア各地に伝わり、その後日本にも到達し広まったということは、学校でも習う歴史として意識されており、すでにほとんどが解明されていると思ったら、まだ相当わからない点が数々あるようです。
この本は、仏教史を研究されている一線の学者たちが、その研究の現状と今後解明しなければならない点をまとめたもので、インドにおける仏教発祥の頃から各地への伝播、中国における発展、日本に伝来以降は古代、中世、近世から現代に至るまで仏教にまつわる歴史の各所について述べられています。
古代史において、仏教関連はすでに研究され尽くしたということは、研究者の中でもそう考えている人が多いと書かれていますが、これは誤解でありまだまだ多くの点について解明されなければならないことが多いようです。
歴史資料というものは、信頼できるもの(真)と信頼できない者もの(偽)とに二分されるというのが、これまでの日本の歴史学の態度だったそうですが、実際はそう簡単に分けられるものではありません。
さらに、どのような史料でもそれを書いた人間の意図や思想が含まれており、その中から真の部分を拾い出すということは、まだまだ多く残されているものだそうです。
比較的解明されているかのように感じられる江戸時代の仏教でも、安定しているかのように見える支配体制への寺社の関与にも時代による差があり、またキリシタン禁制とともに藩によっては浄土真宗や日蓮宗不受不施派の弾圧といったことが行われており、不明な点もまだ残されているようです。
と、いう本書内容ですが、この本が誰を対象として書かれているのか少し不思議な気がします。
内容は、まさに「仏教史研究を目指す学生」(史学科に進学したばかりの大学生や受験する高校生)といった人々のためのものと見えますが、そういった人々が全国に何人いるのでしょう。
学生以外の一般の歴史愛好家にとっても参考にはなるでしょうが、本書内容はそのようなアマチュア研究家の域を越えているように感じます。
まあ、これから自分の研究対象を決めていこうという、大学史学科に入学したばかりの学生さん(それも仏教史に興味のある)にとっては最良の参考書でしょう。