爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「【図説】ゲルマン英雄伝説」アンドレアス・ホイスラー文、マックス・コッホ挿画

本書は日本語訳本として出版されたのは2017年ですが、ドイツで原著が出版されたのは1904年です。

著者のホイスラーは1865年生まれ、挿画のコッホは1859年生まれと、19世紀の人々と言えるでしょう。

 

ゲルマン民族英雄伝説というものは、北欧神話などと比べるとまとまりもなく、よく知られたエピソードというものも少ないという状況は、その時代からすでに言われていたことのようです。

せいぜい、「ニーベルンゲンの歌」「ジークフリート」程度が知られているだけだったというのは、現在でも変わらない様子でした。

それを、きちんとまとめるということがホイスラーの意図だったのかもしれませんが、それとともに、コッホの叙情性たっぷちの挿画を入れることでゲルマン民族というものへの誇りを呼び起こしたかったのでしょうか。

 

ただし、コッホの挿画はそれぞれの伝説にふさわしい歴史的妥当性が備わっていたかどうかは疑問ですが、あくまでも文学的な感覚に訴えるものとしたかったのかもしれません。

 

古代ゲルマン民族は東ヨーロッパから北ヨーロッパにかけて住んでいましたが、東方からフン族が侵入してきたためにそれに押し出される形でローマ帝国の領土に入り込みました。

したがって、英雄伝説の中でも、フン族との緊張関係、ローマへの進出、そしてゲルマン民族の諸族間の争いと、戦いに明け暮れていたかのような様子がわかります。

 

伝説に登場する人々も、実在の人物が多く含まれています。

彼らがこれらの伝説のように振る舞い、死んでいったかどうかは分かりませんが、そう信じられていたのでしょう。

なお、有名なジークフリート伝説は、完全に架空の人物であるようです。

 

東ゴート族の王テオドリヒは実在の人物ですが、伝説も数多く残しています。

テオドリヒはゴート族を率いてバルカン半島からイタリアへ入り、かのオドアケルと戦いこれを殺害して支配権を奪いました。

その後は長くヴェローナを支配していたため、ドイツ人に「デートリヒ・フォン・ベルン」(ベルンとはヴェローナのこと)と呼ばれて伝説化されました。

伝説の中では彼は逆にオタケル(オドアケル)との戦いに破れ、フン族に逃れそこで力を蓄えてからイタリアに戻り、オタケルを破るというように描かれています。

 

ニーベルンゲンの歌という叙事詩は1200年頃に成立したそうです。

その前半はジークフリートという、一切のモデルを持たない純粋に理念的な存在として作られた、低地ライン地方に住んでいた頃のフランク族が作り出した英雄の物語です。

ジークフリートの伝説は、すでに8世紀頃には全ゲルマン族に伝わっていたということです。

後半はジークフリート亡き後のフン族の侵入とブルグント族の滅亡が描かれています。

フン族の王はエッツェルと呼ばれていますが、これはアッチラという名のほうが日本では普通でしょうか。

 

英雄伝説のほとんどは戦争と征服、裏切りといったものの連続ですが、これが当時の日常だったのでしょう。

 

図説 ゲルマン英雄伝説

図説 ゲルマン英雄伝説