他の生物の体内に寄生する動物は多種ありますが、その中にはホストの行動を操り、自らの生存と種の繁栄に有利なように仕向けることができるものもあります。
寄生されたことにより脳の働きが正常ではなくなり、おかしな行動を取っていると見られていたのですが、どうやら寄生生物の利益になるような方策が取られているということが分かってきました。
「ゾンビ」というのは、中南米などで信仰されているブードゥー教で信じられていると言われる、死者を蘇らせて思い通りに動かすということです。
寄生生物が、ホストを死なせるわけではないものの、思うがままに操って自分に有利に動かすという、そのような状態が実際に存在するようなのです。
これを「パラサイト・マニピュレーション」と言います。
カマドウマやカマキリのような昆虫に寄生するのが「ハリガネムシ」という生物です。
類線系動物という種類に分類されていますが、太さ1mmで長さは10cm以上にもなるという形態の虫です。
この一生は、まず水中で卵から孵化し水生昆虫に侵入します。
そして、その体内でシストとなって待機します。
水生昆虫はやがて羽化して陸上に飛び立つのですが、そこでカマキリやカマドウマと行った肉食昆虫に食べられてしまいます。
すると、シストであったハリガネムシはカマキリなどの体内で成長を再開します。
そこから先が本番で、ハリガネムシに寄生された昆虫は普通は近寄らない水辺に移動していきます。
そして、水中に身投げして溺死するのですが、ハリガネムシはそこで水中に抜け出して交尾・産卵するということになります。
ハリガネムシは昆虫を操るために何らかのタンパク質分子を作り出しているようです。
それにより、ホスト昆虫は行動に異常が発生し、水中に飛び込むということが起きているようです。
猫に寄生する原虫で、トキソプラズマというものがあります。
これは、人間が猫を飼うようになってから人間にも寄生するようになりました。
トキソプラズマは猫が終宿主ですが、その他の哺乳類が中間宿主となります。
ネズミにも寄生することがあるのですが、トキソプラズマに寄生されたネズミは異常行動を取るようになります。
それは「猫を恐れない行動を取る」というものです。
普通は天敵の猫を警戒して近づかないのがネズミの習性なのですが、トキソプラズマに感染したネズミは猫の前を堂々と横切るようになります。
実は、このような行動は寄生しているトキソプラズマが取らせていることなのです。
そうして、そのネズミが猫に食べられればトキソプラズマは終宿主に到着することができ、目標を達成するわけです。
これがどのような機構によって起きているのかまだ解明されていないようです。
ここで類推されるのは「トキソプラズマに寄生された人間も何らかの異常行動を取るのではないか」と言う可能性です。
まさか、「猫を怖れなくなる」ということはないでしょうが、感染者は非感染者に比べて2.6倍交通事故を起こしやすいと言う調査結果もあるようです。
トキソプラズマにとっては人間などは目標外でしょうが、そのとばっちりを受けている可能性はありそうです。
本書で取り上げられた寄生生物以外にも、多くの寄生生物が存在しますが、それらが実はホストを何らかの形で操っているのかもしれません。
ゾンビ・パラサイト――ホストを操る寄生生物たち (岩波科学ライブラリー)
- 作者: 小澤祥司
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