爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「本当にインプラントでいいの?」谷口悦子著、A歯科タニグチ会監修

「A歯科タニグチ会」というのは、本書著者の谷口悦子さんの亡くなったご主人、谷口清さんが始められた、根管治療を十分に行うと言う主義で歯科医療を改善しようという活動をされている歯科医グループのようです。

 

谷口清さんは、現状の歯科医療に批判を持ち、特に徹底的に今ある歯を大切に丁寧な治療を施すということを主張していました。

そのため、現状の健康保険制度は不合理であるとして保険から離脱し、さらに歯科医師会からも脱会して独自の考えで非保険診療を遂行してきました。

 

そのような観点から、今大流行のインプラント治療と言うものを見るとどう見えるか。

どうやら、患者にとって無視できないほどの危険をはらむもののようです。

 

インプラントとは、歯をまったく取り去ってしまい、顎から続く骨(歯槽骨)に直接フィクスチャー(インプラント体)と呼ばれるネジ状のチタン製のものを固定し、そこにアパットメント(支台部)を介して歯の形に加工した人工歯を取り付けるものです。

 

保険適用外なので、最初の頃は1本40万円といった値段が付けられていました。

昨今はかなり安く付けられるものも出ていますが、安いだけの粗悪品も多いようです。

ただし、高いから大丈夫ということも無いようです。

 

本書著者のグループが主張しているように、現在の歯科治療の枠組みを決めている健康保険制度には重大な欠陥があります。

歯根の根管部を丁寧に治療してそこに人工歯を接合する方式がもっとも良いはずなのですが、その治療に対して健康保険から払われる治療費がごくわずかなものでしかありません。

労力と時間の割に収入が上がらないために、歯科医の多くはより高収入を目指してインプラントに流れます。

さらに、その中でもよりコスト削減、収入アップを目指し様々な行動を取ります。

 

本書冒頭に描かれているのは、そのような不良歯科医の犯罪行為で、「インプラントの使い回し」というものです。

インプラントはメーカーが作製し完全な滅菌まで行ったものを患者に装着しなければ危険なのですが、中には手術に失敗し患者から取り外したもの(当然それは廃棄すべきものです)を別の患者に使い回すということをやってしまった歯科医が居たそうです。

インプラントの表面は、装着した患者の組織とより強固に接着できるように微細な凹凸が付けられています。

そこに、最初に付けられた患者の組織が付着しているはずであり、患者から取り外してもその組織片を取り除くことは不可能であり、使い回されれば次の患者にとっての異物が最初から付着していることになります。

さらに当然ながら、十分な感染予防策が取られているはずもなく、手術中の感染の危険性も大きいものです。

 

さすがに、このような犯罪行為を行う歯科医は例外としても、インプラント手術を行う歯科医が十分な技術を持っているとは言えないようです。

一般人が歯科医を選ぶ時の判断基準は、周囲の評判というのが多いのでしょうが、そこで「良い歯医者」と言われている噂ほど当てにならないものはないようです。

患者はどうしても「早く」「痛くない」治療をする歯医者が「上手い」と思いがちですが、そのほとんどは単に「手抜き」をしているだけと言うことです。

歯根の治療を徹底的に行うには、どうしてもかなりの時間がかかり、さらに患者に痛みを感じさせることが不可避です。

しかし、そのような丁寧な治療をする歯科医はどうしても「遅く」「痛い」ので評判が悪くなるようです。

 

インプラント手術の技術をきちんと取得しているという歯科医はまだほとんど居ないようです。

大学ではまだインプラント手術の講義がほとんど行なわれていません。

ほとんどが、インプラントメーカーが行なう講習会(というか、単なる説明会)に何回か出席しただけのようです。

そのような説明会を聞いただけですぐにインプラント手術を行なう歯科医もいます。

 

中年以上の人が歯を失う原因の多くは歯周病なのですが、歯周病で歯の抜けた人にすぐインプラントを勧める歯科医もいます。

まず、歯周病を完治させなければ危険極まりないのですが、そのような手間ひまも掛けずに金儲けだけを狙っているようです。

 

本当にインプラントでいいの?―歯科医師発 インプラント事故は対岸の火事じゃない

本当にインプラントでいいの?―歯科医師発 インプラント事故は対岸の火事じゃない

 

 私自身は、子供の頃から虫歯は多かったものの、今の所完全に歯を失ったと言う箇所は数箇所しかなく、曲がりなりにもなんとか歯根だけは残っているのが大部分です。

しかし、この先もそうであるとは言えませんが、このような本を読んでしまうととてもインプラントにしようなどとは考えられないでしょう。