著者の黒田さんはロシア語が一番堪能ということですが、他にもウクライナ語、ベラルーシ語、チェコ語等多くの外国語に通じておられます。
とはいえ、チェコ語は他の言葉ほどには使えないということですが、たまたまチェコの大学での講演を頼まれ、日本語科の学生向けということで多くを日本語で話すものの一部はチェコ語で話すこととしたのですが、それには少し自信が持てなかったようです。
そのため、少しチェコ語に慣れておくために、「チェコ語に翻訳された星新一の作品集を読んでおく」ということをしました。
これは、黒田さんが外国語能力を向上させるために有益と考えている方法です。
ところが、一般的に日本では外国語能力を向上させるためには外国語学校に通い、検定試験を受けるというやり方の方が好まれるようです。
特に、検定試験を受けるための問題集というものが多くの言語について販売されており、それを買って丹念に学んでいくというのが王道のようです。
ただし、そういったものに使われている教材というものは、新聞の社説や小説の抜粋といったものを寄せ集めただけのものが多いようです。
しかし、黒田さんは他の言語の場合でも、「物語を読む」ということが最上と考えています。
問題集の切り貼りした教材などでは、楽しくないからということです。
それくらいなら、オリジナルの物語を読んだほうが楽しい。
これは、言語学専門の研究者でも同様のようで、言語学者はほとんど文学を読まない。文学者は言語学を学ばない。といった傾向が強いとか。
しかし、検定試験漬けで会話至上主義の外国語環境というのは潤いがありません。
そこに潤いをもたらすのは物語しか無いと黒田さんは固く信じているそうです。
こういった意見を記した序章に続き、さまざまな言語にまつわるエッセーがつながっていきます。
物語というものを常に意識しているその文章はなかなか薫り高いと感じさせるものになっているようです。