社会学者の吉見さんはハーバード大学の客員教授として、2017年9月から2018年6月までの10ヶ月の間、マサチューセッツ州ベルモントに滞在しました。
その事自体はその1年以上前に決まっていたのですが、その後の大統領選挙の結果で、その滞在には大きな意味が加わりました。
トランプが大統領選挙に勝利し、その政権が始まったのですが、最初から多くの問題を起こしながらとなりました。
これは、トランプ本人が全ての原因ではなく、アメリカ社会が持ちながらこれまでは隠蔽してきたものをトランプが遠慮なく暴き出していると感じます。
トランプ政権の第1期の前半部だけですが、その混乱の中に入り込んでの観察が為されました。
ハーバードに着任した著者が暮らしたのは、かつて駐日アメリカ大使として活躍したエドウィン・O・ライシャワーが大使の職を終えて帰国した後に住んでいた家でした。
これを改修して日本からハーバードに客員教授としてやって来る人の宿舎として使っているそうです。
ライシャワーが大使であった当時は、ケネディが大統領であり、その対日政策は「ケネディ・ライシャワー路線」として知られていました。
軍事的な意味が大きい日米関係を、うまく覆い隠しながらソフトにスマートな関係として飾ったものでした。
その当時は日米双方の政府もそれを歓迎したものでした。
その後は、むき出しの軍事力の関係をあらわにしたものに代わってきています。
本書記述は、トランプ大統領就任の時から問題視されていたロシア疑惑から始まります。
選挙期間中に多くの偽ニュースが流れたのは事実です。
それに対してロシアの関わりがあったかどうかが問われていますが、特にヒラリー陣営にまつわるゴシップが多かったのは確かです。
そして、それを実際に信じてしまった民衆がかなり存在しました。
これらの偽ニュースが投票結果を左右したとも言えるようです。
この問題は現在でもまだ進行中と言えます。どうなるのか、予断は許しません。
著者は東大の状況も熟知していますので、ハーバードでの経験は日米の大学事情の比較のためにも重要なものだったようです。
大学の研究成果の比較でも差がついているのは確かですが、それよりも学生の教育という面での両者の差はさらに大きくなっていると感じます。
その最大の差は、アメリカでは「学生が議論をする」場を設けるような教育が推進されているということです。
日本の大学では教授が話すことを聞くばかりというのがほとんどで、学生が発言することもほぼありません。
そのためには、教科数の大幅な削減と授業時間の集中が必要ですが、その方向へ日本の大学が向かうのは困難なようです。
「アメリカン・ドリーム」の崩壊というものが労働者階級の反乱にもつながったのですが、この「アメリカン・ドリーム」というのはよく言われているように「大成功を収める」ということだけではなかったようです。
大戦後のわずかな時期だけ存在していた、中間階級の増大、労働者でも大きな家を持ち子供を育てられる環境を獲得できたということも「アメリカン・ドリーム」の一つだったようです。
しかし、そのような状況は完全に消え失せ、かつての安定した労働者の生活は失われ失業者や、仕事はあっても低収入ということになってしまいました。
そのような労働者階級の絶望がトランプを大統領に押し上げたということです。
トランプのあの行動にも関わらず、いやだからこそ、支持率は下げ止まり来年の再選の可能性も高いと言われるようになってしまいました。
アメリカの没落は止まらないようです。