爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「球技の誕生」松井良明著

球技と呼ばれるスポーツ、サッカーやテニス、野球といったものは、多くの人に好まれ、実施され、また観客を集めての試合が行われています。

 

その多くはヨーロッパ、特にイギリスで発祥したと考えられています。

サッカーとラグビーの起源についてはいろいろな話が伝わっています。

また、野球の元の形に近いと考えられているクリケットもイギリスで生まれ、現在でも広く親しまれていると言われています。

 

しかし、著者のスポーツ科学、スポーツ史が専門の松井さんは、そういった通説だけを信じるのではなく、ヨーロッパ各地を実際に訪れ今に残る球技の痕跡を探っていきます。

 

確かに、クリケット、ゴルフ、サッカー、ラグビー、テニス、バドミントン、卓球、ホッケーを今日の形の原型まで作り上げたのは、英国であるのは間違いないようです。

しかし、それ以前の形はどこに起源があるのか、それは簡単な話ではないようです。

 

イギリスの研究者ギルマイスターは、球技の根源は中世の騎士の行っていた馬上試合から生まれてきたと書いています。

これを「バルク球戯」と呼んでいるそうですが、それが徐々に分化していき、まずテニスとフットボールに分かれました。

フットボールはさらにサッカーとラグビークリケットに分かれていき、テニスはバスクのボラルセア、イタリアのパッラ、コロンビアのフエゴ・デ・ラ・シャサに分かれていったと説いているそうです。

 

テニスの原型は中世フランスの「ジュ・ドゥ・ポーム」であるというのが多くの研究者の定説となっていますが、異説も存在しうるということでしょう。

 

著者はスペインとフランスにまたがるバスク地方を訪れ、そこで現在でも多くの人々に実施されている、「ペロタ・マノ」という球技の試合を見ることができ、衝撃を受けます。

これは片側にだけ壁があるコートで向かい合って硬球を手のひらで打ち合うというもので、間にネットがないのでテニスとは異なるようです。

バスク社会では、ペロタ・マノのチャンピオンが一番尊敬されると言われているそうです。

チャンピオンになるには多くの資質が必要であり、なんといっても長い試合を通して硬球による手のひらの痛みに耐えなければならないからだそうです。

 

スコットランドのセント・アンドリューズのゴルフコースに隣接して、ゴルフ博物館がありますが、そこにはスコットランドのゴルフの史料ばかりでなく、ヨーロッパ各地のゴルフに類似するスポーツの史料も展示されているそうです。

ただし、それらの史料を見たところ、スコットランドのゴルフは標的が常に地面の穴であるというところが異なっているということです。

14世紀頃にプレイされていた、オランダの「コルフ(colf)」では、地面の上にある杭や扉などをめがけて打球を当てていました。

オランダやベルギーも古くからスコットランドとの交流が盛んであったため、同じようなスポーツが広まったものと見られます。

しかし、オランダなどでは早い時期にゴルフ類は人気がなくなり、ボールをゲートに通すペルメルというスポーツが流行ってしまったそうです。

 

フットボールの原型と言われる、村をあげての祝祭としてのボールの蹴り合いなどは、しばしば多くの死傷者を出したために、禁止令が出されました。

そのために、いつ頃どこでフットボールが流行していたかがよく分かるそうです。

こういった試合は庶民の多くが参加しました。

それが、上流階級の子弟の通う学校などで行われる、高級なスポーツに進化することでルールも洗練されていき、現代のスポーツにつながっていったのでしょう。

 

陸上競技や水泳など、専門のアスリートと呼ばれる人々でないと芽が出ないものと異なり、誰でも楽しめる球技と言うものは、これからも人気を集めていきそうです。

 

球技の誕生: 人はなぜスポーツをするのか

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