伊勢物語と言えば学校の授業でも歴史や古文で出てきたかもしれませんが、その原文と現代語訳、注釈をまとめた本です。
ただし、現代語訳と言ってもかなり古い現代語です。
1953年に角川文庫で初版発行されたもので、旧仮名遣いで書かれています。
「むかし、をとこありけり」でたいていの段は始まっていますが、この主人公は在原業平であることが多いと言われています。
第八段の、三河国八橋でかきつばたを見て、「かきつばたの五文字を句の上に据えて旅の心を読め」というくだりは、確か古文の教科書にも載っていたのではないかと思います。
これはまあ、京に残してきた妻を思い歌ったと見られることから、教科書向きかもしれませんが、その他のほとんどの段はとても教科書に載せられるようなものではないようです。
身分違いの皇女に言い寄ったり、家族から禁じられた交際相手を連れ出して逃げたり、まあそういったことが普通であったのかもしれませんが、その後の道徳観からは少し離れたものかもしれません。
初段の、「初冠した」ばかりの少年が、奈良の都の春日里の「いとなまめいたる女はらから」に歌を届けるというものも、「むかしびとはかくいちはやきみやびをなむしける」と誇らしげに書かれていることで、かえってすっきりとします。
まあ、現代日本人にもこのような血が脈々と流れているのでしょう。