爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「移住・移民の世界地図」ラッセル・キング他著、竹沢尚一郎他訳

ヨーロッパ全体が移民により揺り動かされ、アメリカでも移民圧力が強まり、日本でも移民に扉を開けるかと言われています。

このような世界の情勢を、移民の軌跡から見ればどうなるか。

現在の世界の動きだけでなく、歴史的な移民の動きまで、詳細な地図の上で矢印で記されているために、感覚的につかめるようになっています。

 

最初の図は、ホモ・サピエンスがアフリカ東部に発して世界中に広がっていく、おなじみのものです。

出アフリカが、エジプトを通って行ったのか、そこから直接ヨーロッパに入ったのか、東アジアには中央アジアから北回りで来たのか等々、少々疑問もありますが、まあ細かいところをあれこれ言うようなものではないのでしょう。

 

これを見れば、人類すべてが「移民」であることが分かります。単に先に来ただけのものが後から来るものを排斥できるのかどうか、それを感じ取ることができるかどうか、人によるのでしょう。

 

強制的な労働移住では、16世紀から19世紀までの大西洋奴隷貿易というものが圧倒的なものを見せてくれます。

主に南西アフリカから大きな矢印が中南米から北米にまで向かっています。

人類史上で考えてもこれが大きな移動であることが直感的に理解できます。

 

それと同じくらいに大規模であったのが、19世紀末から続いた「年季奉公者」という人々の移動です。

奴隷とは言えないものの、経済的に困窮した、中国人、インド人などがアメリカやブラジルなど、そしてインド人の場合は特に南アフリカなどへ向かったことが分かります。

 

アメリカへの、最初の移民に遅れを取った、アイルランドやイタリア、東ヨーロッパからの移民も大規模であり、またアメリカ国内の移住をも引き起こしました。

 

15世紀からのヨーロッパ諸国によるアフリカ、アジア、アメリカの植民地化に伴うヨーロッパ人の移動も数は少ないものの大きな影響を生みました。

ただし、その内容は国によって大きな差があり、イギリスはあくまでも支配者層の派遣にとどまり現地との融合は起きなかったのに対し、スペインは派遣されたのが男性ばかりで、それが現地人女性との間に混血児を作り、現代に至るまで多くのメスティーソインディオとスペイン人の混血)を産み、クレオール文化を作りました。

 

経済的な理由からの移動である移民ばかりでなく、政治的、軍事的要因から移動を強いられる難民と呼ばれる人々も多数発生しています。

その受入に対しては、国によって姿勢が違い、多数の難民の定住を許す国もあり、日本のようにほとんど受け入れない国もあります。

一般的な印象では、難民受け入れに積極的なのはヨーロッパや北米というイメージがありますが、実はこれまでに多くの難民を受け入れてきたのはパキスタンとイランだそうです。

 

そして、一度は難民として国を離れても、その状況が改善すればやはり帰国したいと願うようで、アフガニスタンを逃れた難民のパキスタンやイランからの帰還という事態も起きているようです。

 

労働者の移住という面では、男女の違いも明白であり、肉体労働を行う男性と、家事や介護などの女性とでは出身国や行き先も異なります。

フィリピンはこういった女性労働者を多数送り出しており、その行き先はサウジアラビアなどの中東各国の他にもアメリカやイタリアに多く在住しています。

また、女性が結婚相手として移住する結婚移民というものも存在し、かつては日本にも多数の女性が来日しましたが、現在では韓国が多くの結婚移民の女性を受け入れているようです。

 

日本でも感覚的に外国人が増えたという印象がありますが、様々な人々が国際的に移動をしているということなのでしょう。

 

移住・移民の世界地図

移住・移民の世界地図