爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「韓国現代史 大統領たちの栄光と蹉跌」木村幹著

韓国(大韓民国)はもっとも近い国でありながらその中身を日本人はあまりよく知らないようです。

少なくともアメリカよりははるかに知識量が少ないでしょう。

 

朝鮮半島地域の研究が専門という著者が、その韓国の日本からの解放以降の現代史を著述する方法として、歴代の大統領に着目し、歴史の各段階において彼らがどのように振る舞ったのかを詳述することで、活き活きとした描写を可能としました。

日本の政治史を綴ろうとする場合に、歴代首相のことだけを書いていってもよく分からないでしょうが、韓国は良し悪しはともかくやはり大統領と言う人物が大きな存在であるということでしょう。

 

ただし、あとがきで著者も「忸怩たる思い」としているように、崔圭夏、全斗煥盧泰愚の3人の元大統領については、その後に様々な事件の裁判に巻き込まれたために客観的資料が揃わずにほとんど取り上げることができなかったということです。

これも、韓国の激しい政治状況が絡んでいることなのでしょう。

 

1945年8月の日本敗戦にともなう植民地支配の終了以降、時代ごとに韓国の状況は大きく変化していきました。

それを、1945年8月それぞれの暑い夏、大韓民国建国1945-1947、朝鮮戦争勃発1950-1953、4月革命への道1954-1960、5・16軍事クーデター1961-1963、日韓国交正常化1964-1970、維新クーデター1971-1972、朴正熙暗殺1973-1979、新軍部による支配1980-1986、第6共和国の興亡1987-2002、レイムダック現象の韓国政治2002-

と各時代区分ごとに、「後の大統領はその時に何をしていたか」という手法で鮮やかに描き出しています。

 

たとえば、日本敗戦の日金大中は入社したばかりの日本人経営の海運会社で勤務している時に迎えました。

朴正熙満州国軍隊の大隊の副官でした。直後に日本軍の指揮体系は失くなり中国軍が指揮を始めました。

李承晩はその時すでに70歳、日本の植民地支配から抜けるための助力を要請するためにアメリカにわたったものの、誰からも相手にされずどうしようもないまま亡命状態でした。

 

大韓民国が建国に至るのは1948年、それまでの3年間は様々な勢力が米軍の存在下に激しく主導権を争うという時期でした。

偶然のような行きがかりで李承晩が大韓民国建国の父として初代大統領となりますが、決して圧倒的な勢力を持っていたわけではなく、不安定なものでした。

 

昨今話題になっている日韓国交正常化や日韓条約締結などの問題は、その少し前に起きた軍事クーデターと深く関わっていたことが分かります。

朴正熙によるクーデターはその後軍政から民政に移管と見せかけても、朴正熙がそのまま大統領に選ばれるように仕組んだと見られます。

そして、朴正熙が深いこだわりを見せたのが日韓国交正常化でした。

そのため、金大中、金泳三などの野党勢力はそれに対し激しく反対運動を行っています。

もちろん、彼らもその後自らが政権を取った際には日韓条約を受け継いでおり問題化をすることは無かったのですが、やはりその初めから大きな問題を抱えているものだったのでしょう。

 

しかし、韓国現代史というものに関して何も知らないも同然であるということを改めて実感しました。

5・16軍事クーデター、維新クーデター、新軍部支配などという言葉自体もほとんど初めて聞いたような状態です。

特に新軍部支配などは1980年以降と言う新しい時代のことであり、それすら聞こえていないと言うのはある意味で衝撃でした。

このようなことも知らずに日韓関係などということを考えるべきではないと反省です。

 

韓国現代史―大統領たちの栄光と蹉跌 (中公新書)

韓国現代史―大統領たちの栄光と蹉跌 (中公新書)