アメリカの一極支配に陰りが見え、その代わりに中国が台頭するという見方をする人が、専門家、一般人を問わず多いようです。
しかし、通産省官僚から中国の日本大使館参事官を経て対中国のさまざまな交渉に関わってきた著者の津上さんから見れば、「中国台頭は終わる」としか見えないようです。
さらに、もうアメリカのGMPを中国が追い越すのも間近と言われていても、そのような時は来そうもないとしています。
本書出版は2013年、アメリカ発のリーマンショックで全世界が打撃を受けたのですが、中国のみは大規模な財政出動で速い復活を果たしました。
しかし、著者に言わせればその対策自体が非常に危ういもので、その副作用も中国全土に深く残っており、それが逆に中国の苦しみの基にもなるということです。
発表される中国の経済指標はお手盛りのもので、まったく実情とは違うとはよく言われることですが、実際に中国はこの5年前にはすでに「中成長モード」に入っていたようです。
過去の飛び抜けた成長を許した要因はすでにピークアウトしており、転換点をすぎてこれからは、高付加価値、生産性重視の路線に変化しなければならない状況になっているはずです。
しかし、リーマンショックによる大不況対策として、中国は「4兆元の公共投資」と言う対策を実施し、形の上だけは不況回復を成し遂げたように見せました。
しかし、これらは固定資産投資に偏っていたために、今後に残る後遺症が厳しいものとなっています。
中国国内では、民間の大きな企業が発展し活躍していると言われています。
しかし、そこで名前の出るアリババ、フアウェイ、等々の企業が目立つものの、意外に数は少ない。
実はこのような世界的大企業となったものはごく少数で、ほかは今だに国営企業とその関係者だけというのが中国の実情だそうです。
いまだに、「国家資本主義」が大部分を占めています。
それは、共産党の各段階の地方組織が基盤となっており、そこが富を吸い上げる構造となっています。
民間企業も成長しようとすれば地方政府に擦り寄らねばならず、公正な競争とは程遠い構造です。
地方政府の方針も全国同様となるばかり、過当競争となり投資もすぐに過剰となります。
日本でもかつては「テクノポリス構想」に全国各地が名乗りを上げ、どこもものにならず空き地ばかりと言うことになりましたが、中国の場合は地方政府がすべて同じことをやり出すということにブレーキがかからず、さらにひどいことになります。
中国の近未来の最大の危機は、少子高齢化と老人の年金制度が貧弱なことでしょうが、いずれもまともな対策は考えられていません。
地方政府に集中する富を年金制度に振り向ければまだ救済されるのでしょうが、それは無視されています。
さらに、出生率は「1.18」というとんでもない数値が公表されました。2010年のこの発表は、衝撃を生みました。
生産年齢人口はすでにピークアウトしており、あとはどんどんと減る一方です。
さらに、都市部と農村部の格差は広がり、制度上の問題もあり解消する見込みはありません。
都市戸籍を持たないまま、都市部で底辺の労働者として雇われている農民工の不満は大きく、対日問題が起きるたびに暴動を起こすのも彼らです。
日本が問題というよりは、政府に対する不満が爆発するのであり、それを政府も利用しています。
このように、一部の企業では世界的な活躍もあるものの、中国全体としてこれ以上の成長は難しいというものです。
さて、真実はどこにあるのでしょうか。
この本に書かれていることも多くは間違いのないことかもしれません。
しかし、アメリカの退潮が急激であることを見ると中国が相対的に持ち上げられざるをえないということもあるでしょう。
いずれにせよ、アメリカと中国の関係で世界が動くと言う状況は当分続きそうです。