爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「さかさま世界史 英雄伝」寺山修司著

寺山修司さんといえば、天井桟敷という劇団を立ち上げ、多くの話題を振りまきながら活躍したものの、1983年に47歳の若さで亡くなられました。

そんなに前に亡くなったとは思えないほど存在感はまだ感じられるのですが、それは私達以上の年代の人たちに限られたものでしょうか。

 

この本は、寺山さんの活動から見ればほんの余技といったところかもしれませんが、古今東西さまざまな世界の人たち(聖徳太子からトロツキーまで)を取り上げ、その生涯を紹介すると言うよりは、自らのごく近くにまで引っ張り寄せてその人間性を取り上げ自分の思いを投影するというものになっています。

 

それにしても、キリスト、プラトン孟子といった思想家から毛沢東トロツキーという政治家まで、様々な人々をその裏側に近いところまで描くその博学多識ぶりには驚きます。

 

その中でも出色の描写は、紫式部を取り上げた章でしょうか。

源氏物語の登場人物を、現代(といっても本書執筆当時の1970年代ですが)の人々に投影し、細かく描写するという玄人芸を見せています。

 

末摘花は、丸の内のある商社のタイピスト、鼻が赤くてみにくいために婚期を逃しオールドミスになってしまった。愛読誌は「週刊女性自身」

同じ会社でタイピストをしている某女性の末摘花さん評「食べ物の好き嫌いがはげしくて、フクジンヅケばかり食べているからちっとも太らないのよ。やせ給えること、いといとおしげにさらぼいて、肩のほどなどは痛げなるまでに衣の上だに見ゆ、なのね。」

 

藤壺は、今をときめく郵船会社社長夫人、夫はゴルフに熱中してめったに帰宅しないために、いつも退屈している。

テレビの番組に出演した時に、アルバイト学生の源氏にお茶にさそわれそのままホテルへ。その後夫に内緒で密会することが度重なり、ついに源氏の子を産んだが夫は自分の子だと疑いもしなかった。そのまま夫の会社を継がせた。

 

明石、地方官吏の娘である。サイタマ訛りがひどいので、いくらニューモードを着てもどことなくしっくりこない。

妻子ある源氏とダンスパーティーで知り合ってそのままホテルへ行き妊娠した。

源氏は堕ろすように言ったが明石は産むと主張して譲らず結局産んで源氏に引き取らせた。

 

実に、寺山さんに才気を感じさせるものとなっています。

 

さかさま世界史 英雄伝 (角川文庫)

さかさま世界史 英雄伝 (角川文庫)