通勤電車といえば、ラッシュアワーのぎゅうぎゅう詰めというイメージですが、実は通勤に電車を利用する人が多いというのは、東京と大阪の都市圏が突出している状況です。
地方では車を使う人の割合が多くなります。
また、三大都市圏と言いますが、名古屋圏では電車を使う人の割合が比較的少なく車利用が多いようです。
東京・大阪の日本における二大電車通勤地帯について、非常に詳細にその歴史と特徴、これからの見通しなどを説明されているのが本書です。
なお、私も今では熊本の田舎でのんびりとしていますが、かつて学生時代には混雑する電車で通学していましたので、本書に書かれている話題も身近に感じられました。
通勤電車の混雑と言えば、かつては駅での押し込みもあり相当なものでした。
その頃と比べれば現在はかなり混雑率も緩和されており、多くは立ってはいても新聞が読める(とは言いますが、今では大抵の人はスマホを見ていますが)状態になっており、大阪圏ではほとんどの路線で混雑率が130%を下回るまでになっています。
東京圏では、総武線や東西線など一部ではまだ200%以上のところもあるようです。
東京圏では、かつては山手線の内側は路面電車(都電)が縦横に走っていましたが、道路事情の悪化からほとんど廃止されそれに代わり地下鉄が建設されました。
しかし、地下鉄がかつての都電の代わりと言えるかどうか疑問があります。
都電の停留所の距離の近さは、現在の地下鉄の駅間距離とは比べ物にならないほどで、地下鉄の大手町駅は現在では千代田線、東西線など5路線の乗換駅となっていますが、この駅の乗り換え口の間にはかつては都電の神田橋、大手町、丸の内一丁目の3停留所があり、それほどの距離を歩いて乗り換えなければならないことになります。
都電の代替は当時はバス路線と考えられており、設置されていったのですが、これもやはり道路渋滞の影響で運行が難しくなり、段々と廃止されてしまったわけです。
地下鉄の建設も次々と進められたために、東京の都心部の地下にはほとんど余地が残っていない状態になってしまいました。
新しい副都心線などは隙間を縫って建設されたために、登り降りの高低差がひどくなっています。
地上の鉄道の場合も他の建築物も密集して建てられているために、改良工事をしようとしても簡単ではなく、巨額の費用と長い期間をかけてようやく実施しているような状態です。
二子玉川駅の付け替えなど、難工事をようやく実施し改良をしているありさまです。
東京は元々は山手線の内側への私鉄延伸を認めなかったために山手線上の駅からは地下鉄などに接続というネットワークを作らざるを得なかったのですが、大阪圏では環状線自体できたのが遅かったということもあり、私鉄が梅田や難波、上本町などの都心部にターミナルを置くということになりました。
そのため市内の通行は市電程度でちょうどよいということになり、私鉄と市電との協力ができたようです。
私鉄はそこから郊外へと路線を伸ばし大きな営業圏を作り上げました。
そのためか、JRや地下鉄との接続というものをあまり便利にはしておらず、東京のようにスムーズではないようです。
南海電鉄とJRの乗り換えの新今宮にはかつては南海の駅はなく、JR側も環状線は止まるものの同じ路線を走る関西本線は通過していました。
駅名も乗換駅であっても別々というところが多く、JRの大阪駅から乗り換える私鉄・地下鉄の駅は梅田です。
JR・地下鉄の天王寺駅から乗り換える私鉄の駅は阿倍野橋といった具合です。
東京圏は混雑緩和という要請がまだ残っているものの、輸送力増強に必要な費用が巨額であり、なかなか着手が難しいところです。
利便性の向上という点では、山手線とその上のターミナルから放射状に伸びるJR線、私鉄線というネットワークはあるものの、その途中でそれぞれをつなぐ(蜘蛛の巣の横線のようなもの)路線が不足していました。
武蔵野線のような路線ができたものの、まだ環八沿いには鉄道が無く、建設の余地があります。
大阪圏では混雑はかなり緩和されており、輸送力増強はあまり求められていません。
新線建設による利便性向上の余地は各所にありそうです。
新幹線の新大阪と各路線を結ぶ路線があれば新幹線からの移動がスムーズに行きそうです。
それぞれの鉄道の建設自体、その当時の最良を求めて作られているのでしょうが、その後の状況で現在では必ずしも便利と言えないところができてしまったようです。
東京駅、御茶ノ水駅、渋谷駅などは、私も学生時代によく利用したところでしたので、本書の詳細な記述は懐かしく感じられました。
通勤電車のはなし - 東京・大阪、快適通勤のために (中公新書)
- 作者: 佐藤信之
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2017/05/18
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