NHKの番組で、ファミリーヒストリーというものがあります。
芸能人などの有名人の父母、祖父母さらに先祖の調査をして、どのような人生を送ったのかを見せてくれるのですが、NHKの権威を十分に発揮して綿密な調査を行っているために、普通では分からないようなところまで解明されています。
ちょっと前に放送された音楽家の坂本龍一さんの回でも、母方の祖父が極貧の中から苦学して旧制五高、京都帝大と進み生命保険会社で活躍した姿や、ご父君が小説の編集者として三島由紀夫をはじめ多くの著名作家の発掘とデビューに力を尽くしたということなど、御本人の坂本さんもあまり知らなかったことまではっきりと示し、思わず心が動かされます。
これまでにも数多くの放送がされていますが、いずれの回にもほぼ共通のことがあります。
それは、言うまでもなく日中戦争から太平洋戦争に至る戦争で、ほぼ全ての登場人物が極めて大きな危険にあい、そこを生き抜いてきたということです。
対象の著名人の、だいたい父母の世代がちょうど太平洋戦争時には壮年であったことが多いようですが、戦地に出征し九死に一生を得て戻った人や、内地でも空襲などで危ういところで生きながらえたということが多いようです。
(もちろん、そこで亡くなっていればその子や孫の誕生は無かったわけですが)
前述の坂本さんのご父君も満州に派兵されたのですが、終戦直前に命令で内地に戻ったためにシベリア抑留を逃れ生き延びたそうです。しかし、戦友の多くはシベリアで生命を落とされたとか。
もう一つの共通点ですが、これまた多くの人々が明治維新から明治初期の社会の大変革で大きく生き方を変えているということです。
武士階級もそれまでの家禄を失い、特に下級武士などはすぐに暮らしに困窮して職を求めて移動しています。
農家でも小作や自作農でも土地の少ない人々はそれだけではやって行けずに都会に流れ込むようになります。
また、北海道や東北などへの開拓に賭ける人も居ましたが、非常な困難に打ちのめされることになりました。
明治初年から考えても現在まで約150年、今壮年の人の3代ほど前、せいぜい曽祖父くらいからの物語が、どの家族にもあります。
一部の人にとってはそれがチャンスになったかもしれませんが、逆に塗炭の苦しみを味合わされた人も多いことでしょう。
そして、これから先の混迷も予測できるところです。
今から50年、100年先にもし「ファミリーヒストリー」のような番組があったとして、そこにはどのような波乱の人生が描かれるでしょうか。
そのような番組すらあり得ないような社会(社会と言えるものが残っているなら)になっているかもしれません。
それは、今の選択と行動にかかっています。