爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「危機とサバイバル」ジャック・アタリ著

「ヨーロッパ最高の知性」と言われる、フランス人のエコノミスト、歴史家、政治学者等々様々な側面を持つジャック・アタリ氏は、多くの著作で世界に衝撃を与えてきましたが、この本は現代の世界がどのような危機に直面しているか、そして、その危機を克服しサバイバルするためにはどうする必要があるのかを示したものです。

 

数々の著作は日本でも話題となり、田中康夫氏、鳩山元首相、菅直人元首相なども影響を受けたことを公言しています。

だとすれば、実際の効力はないか。

 

現在の危機は、多くの人々が指摘し、語っている通りですが、アタリもこの点ではそこまで独自の観点があるというわけではないようです。

 

人口問題、エネルギー問題、人々の精神やイデオロギー、経済危機、エコロジーパンデミックなどなど。

 

注目すべきはこのような数多くの「危機」からサバイバルするためには何が必要なのかを説いているところです。

 

サバイバルする主体としては、個人、企業、国家、そして人類全体まで様々ですが、アタリはそのサバイバル戦略として同一の基準を設けています。

 

それは「7つの原則」を応用するということです。

それは、次の7原則です。

1.自己の尊重 生きる欲望を捨てない。

2.緊張感 長期的な展望を持ち、常に限りある時間に対して緊張感を持つ

3.共感力 味方を最大化しなければ力を持てない。そのために合理的利他主義を持つ

4.レジリエンス 柔軟に、復元力・耐久力・抵抗力を持つ

5.独創性 自分が持っている資源が不足しているのなら何が欠けているかを理解し、不足を自分の進歩に変えること

6.ユビキタス あらゆる状況に対応できる能力

7.革命的な思考力 どうしようもなく追い詰められた時にはゲームのルールを踏みにじってでもやり遂げる

 

原則ですので、いささか抽象的ですが、これらの原則を、個人、企業、国家、人類に対してどのように応用するかということが語られています。

 

その方策の詳細の紹介は控えますが、各所に光る記述がありましたので、それを書き留めておきます。

 

世界の未来の姿(混乱と衰退)を今すでに描いているかのようなものが「日本化」「マドフ化」「ソマリア化」です。

日本化とは、世界最高水準の国家債務を抱えているにも関わらず、高齢化の急激な進行を迎えている。

マドフ化とは、「資金を運用しその利益を配当する」と称しながら私服を肥やしたバーナード・マドフという詐欺師が使った手で、それを今では欧州中央銀行FRBもやっている。

ソマリア化とは、政府を欠いた国家であり、無法状態ですが、もはや欧米の経済市場はそれに近い存在、すなわち「法なき市場」になっている。

ということです。

 

権力者という人々は、資産を持ち自分は安定した身分です。

そのため、サバイバルというのは自分たちの問題ではなく、社会の行末も(自分たちが指導者であるにも関わらず)楽観的になりがちです。

この権力者の楽観主義と不誠実が社会的弱者を追い詰めていきます。

 

全世界的な不況が長引き、国際貿易が低迷すると、各国は自国の雇用を守ろうとして保護主義に向かいます。それは成果を上げる前に経済成長の低迷につながります。

 

民主主義がこの後も続けられるのか、世界の有力な指導者が2013年にいずれも民主主義とは言えない構造で選ばれました。

ローマ・カトリック教会教皇と、中国の習近平です。

いずれも、ピラミッド型の組織で、最高指導者の選考委員の選び方もよく似ています。

ほかのどの民主主義国家も存続するために過度の財政支出と、減税を余儀なくされ、巨額の公的債務を抱えることになっています。

民主主義的な手続きが本当に良いことなのかどうか、問い直すべきでしょう。

 

さて、このアタリ氏のサバイバル術を実行すれば生き延びれるのでしょうか。

なにかやらなければならないのは間違いがないのですが。

 

危機とサバイバル――21世紀を生き抜くための〈7つの原則〉

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