この本はシリーズ化しており、最近も続刊が発行されていますが、その第1巻で2009年11月に出版されているものです。
その時何があったかというと、アメリカではサブプライムショックからリーマンショックに発展し、経済がガタ落ち、そのために、本書の大部分は「アメリカの一極覇権体制の終焉」というテーマで書かれています。
それと、日本では民主党政権が誕生、まだボロも出ずにいろいろとやりたいことを打ち出していた時で、その見通しについても書かれており、池上さんも相当期待をしていたということが見えます。
その時々の重要な問題について書かれているので、前提が変われば意味のなくなる部分も出てきますが、あとから読んでも十分に意味のある場合もあるようです。
アメリカではサブプライムローンの破綻からの経済恐慌で苦しんでいた時代ですので、池上さんの触れるのもアメリカ経済界の問題点が多くなります。
ちょっと忘れかけていたことですが、金融機関の危機だけにとどまらずに2009年4月にはクライスラーが破綻、6月にはGMが経営破綻したという、自動車業界も苦しい時代であったということです。
これは、昔からの経営体質がそのままであり、環境が変化する中でついていけなくなったということが解説されています。
たとえば、労働組合が強力であるということ。
そのために、従業員や退職者にまで医療保険料を払い、退職者の企業年金も多額であったということなど、かつての従業員高福祉体質がまだ残っていたということです。
このあたり、現在の状況を考えるとトランプの自動車輸入への高関税政策を取った場合、国内生産をする自動車業界では従業員の福祉体制はどうなっているのか、興味あるところです。
もちろん、高福祉体制であれば労働コストが高くなり製品も高価になるはずですが。
アメリカの覇権を脅かすのはどこだという章では、BRICsやVISTAなど、「昔懐かしい」?用語が出てきてしまいました。
まだBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)は生き残っているものの、VISTAがなにかなど忘却の彼方です。
その他の新興国は皆つぶれ、中国のみが生き残ったということでしょうか。
民主党政権への期待の点では、郵政民営化を戻すのかどうかということが言われています。
ここで、郵政民営化の意味についても再度確認されていますが、これは「郵便貯金の財政投融資への投資」を廃止するということが一番の理由だったということです。
これはどういうことかと言うと、銀行では預金された資金は民間企業等に貸付されて産業運営に使われるのに対し、かつての郵貯資金は財政投融資資金として、特殊法人などに融資され、ほとんど無駄なものに使われていたということがあったということです。
それをやめさせるために民営化したという解釈でしょうか。
その他の期待として、官僚の天下りの阻止、外務省の密約の公開など多くの官僚の暴走をストップさせることが挙げられていました。残念ながら、これらはすべて官僚の抵抗で民主党政権を破綻させることで失敗しました。
民主党政権の失脚の理由もこれをみると分かりやすいようです。
まだしばらく、このシリーズは読んでみる価値がありそうです。