爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ここが違う、ヨーロッパの交通政策」片野優著

民主党が政権を取った当時、マニフェストで高速道路の無料化というものが掲げられ、先進国ではそちらの方が一般的であるかのように思われました。

しかし、ヨーロッパの現状は全く逆、これまで無償であったドイツのアウトバーンも有料化の動きが始まっており、また長年高速道路が無料だったイギリスでも新規に建設される高速道路は有料であり、その他の各国でも高速道路は有料です。

 

ヨーロッパではもはや自動車の野放図な使用は制限しようという動きが強く、都市交通では市電やバスなどの公共交通網の強化、自転車専用道路の整備による自転車の使用を進めているのが実情です。

 

また、自動車に対して高額な税金を課す国も多く、デンマークでは25%の消費税に加えて180%の登録税が必要、すなわち200万円の新車を購入するのに500万円以上を支払う制度となっています。

 

EUは1988年に「人間は誰でも自由に移動する権利を有する」という、交通権を中心理念とする交通基本法を取り入れました。

これは一見、自動車も自由に使うことができるようなものと見えますが、実は「歩行者は健康的な環境で生活を営み、身体的精神的に安全が保証される公共空間において、快適さを満喫する権利を有する」で始まる「歩行者の権利に関する欧州憲章」の基礎となるものです。

 

とはいえ、かつてのヨーロッパの諸都市は自動車による渋滞が激しく、排気ガスによる環境汚染もひどいものでした。

そのため、渋滞のひどい都市中心部への自動車進入を防ぐという観点から、ロンドンやストックホルムで「渋滞税」という課税が始まります。

その導入には反対の意見も多かったものの、ストックホルムでは国民投票まで実施して決断しました。

その結果、自動車の通行量は減少しそのためバスの運行もスムーズになったそうです。

 

その代りの交通手段の確保ということも重要ですが、各地で市電の復活、増便が実施され、またパークアンドライドのための駐車場が整備され、さらに自転車道の整備も進んでいます。

フランスでは、地方に公共交通の整備のための財源を確保する権限を与え、安定した経営ができるようにしています。

そもそも、フランスでは公共交通で黒字を出すということが悪だと考えられています。

日本では公共交通でも赤字が出ると不採算路線の廃止などと言われるのとは逆で、公共交通はそれ自体で採算が取れるはずがないということが共通の認識なのでしょう。

 

自転車を共用するシステムの開発にも多くの都市があたっており、各地で登録料と使用料を払えば自転車が使えるようになっています。

ただし、パリでも「ヴェリブ」という共用自転車があるものの、頻繁に壊されまた盗まれるという問題があるようです。

これはパリという大都会だからという事情もありそうです。

 

このような政策は日本でこそ緊急に取り組むべきだと思いますが、相も変わらず自動車のための整備ばかりです。

ただし、この本でも「都市」の交通政策は紹介されていましたが、「都市以外」はどうなんだろうという疑問はあります。どの程度の人口の町まで公共交通整備ができるかというのは、日本でも地方都市では問題となりそうです。

 

ここが違う、ヨーロッパの交通政策

ここが違う、ヨーロッパの交通政策