爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「グリーン資本主義」佐和隆光著

まあ題名だけ見れば、環境と資本主義の折衷案という感じのものかなというところでしょうか。大体そのようなものです。

 

著者の佐和さんは、京大名誉教授にして滋賀大学前学長、かなり偉い方のようです。

そんな人でも、社会の連中が環境保護の世界の大勢に背を向けて経済成長にこだわり続けるのには相当苛立っているようで、文中あちこちにそれが見え隠れします。

 

主張はまとめて言えば、「二酸化炭素温暖化を防ぐために環境税などの政策を取り、さらに自然エネルギー化を進めれば、産業構造変換の効果も出て経済成長も両立できる」というものです。

 

思考の跡をたどってみれば、

二酸化炭素濃度上昇により温暖化が進み、気候変動が起きている。最近の異常気象もそれである。ということを、全く疑問も持たずに信じている。

環境税の施行、化石燃料は限られた用途のみに限り自然エネルギー化を進めるといった施策で、産業構造が変化させられればそれに伴い雇用の創出、経済成長の持続は可能。

エネルギー価格は上昇するので、グローバリゼーションは逆行する。食糧などは自国生産を増やす。

それにより、金融不安やテロ蔓延も防げる。

といったところでしょうか。

 

環境税などを導入すると経済が停滞し成長できなくなるという、多くの経営者、経済学者などの俗説は、自然エネルギー化などの産業振興で吹っ飛ばせるという荒っぽい?主張のようです。

そこまでして、二酸化炭素排出を削減しなければ異常気象で危ないというのですが、その関連についてもそれを主張する人々の学説を丸呑みのようです。

 

本の中にも書いてありますが、高度成長期の成長の中身は、目に見え、身体に感じるような生活向上の実感がありました。

食物の中身も華やかになり、テレビが見られ、洗濯機が活躍し、自動車で走り回ることができました。

だからこそ、皆が喜んでこれらの製品を購入し、経済成長が成し遂げられたのですが、この先の変化では、もしも経済成長はできるとしても我らにそれがどう感じられるでしょう。

単に、エネルギー源が化石燃料から太陽光や風力に変わりましたというだけで、生活自体には何の変化もありません。

いや、電力の不安定化やエネルギーコストの上昇で、生活は確実に低下するでしょう。

 

それでもこれを成し遂げなければならないとして、持ち出されるのが異常気象による災害多発です。

こういったものを持ち出して脅さなければならない温暖化阻止というものは、どう見ても胡散臭く写ります。

 

まあかなり嫌な読後感があふれる本でした。

 

グリーン資本主義 グローバル「危機」克服の条件 (岩波新書)

グリーン資本主義 グローバル「危機」克服の条件 (岩波新書)

 

 この問題に対する私の姿勢を披露しておきます。

二酸化炭素濃度上昇に伴う温暖化は存在するだろうが、それだけが気候変動の原因とは考えられない。したがって、二酸化炭素排出を削減したとしても異常気象が起こらないとは言えない。

しかし、化石燃料消費に頼る文明というのは非常に脆弱であり、速やかにその構造から脱却する(脱エネルギー文明化)必要がある。

そのためには、経済成長などは考慮する余地はない。

そもそも、経済成長をいつまでも続けられるはずがなく、いずれはストップする。

ならば、速やかに「経済成長に頼らない社会」の実現をする必要がある。

といったところです。