オランダ出身の国際政治学者、ウォルフレンさんが、日本の政治・外交についての評価を記した、2006年出版の本です。
当時は小泉首相がその職にあり、度重なる靖国神社参拝で特に中国・韓国の反発を招いていました。
本書題名に示されている「鎖国」とはもちろん江戸時代に徳川幕府がオランダ以外の通商を禁じた政策ですが、第二次大戦後アメリカの占領時代を経て一応講和条約を結んで諸国と通じることになったとしても、やはりその状態は「鎖国」と言えるのではないかというのが著者の意見です。
こういった、政治経済関係の書籍は、賞味期限というものがあるようで通常は出版から10年以上も経過してみれば世界の情勢も大きく変わり、書籍に記されている内容も陳腐化していることが多いのですが、この本で著者が当時の小泉首相の施策を批判していることが、そのまま現在の安倍首相の施策にも通用しているのはどうなんでしょうか。
小泉とほとんど同様の行為を現在の安倍首相もやっているということでしょう。
しかも、当時の小泉首相は政治的な立場やその施策には大いに疑問点があったのですが、私的なスキャンダルはまったく明るみに出ることはありませんでした。
それが、現在の首相はスキャンダルまみれ、数々の疑惑を抱えています。
全体として施策の面では小泉と似通ったことをしている安倍ですが、その行状の腐敗度ははるかに小泉を超えています。
なんと嘆かわしい首相を選んでいることでしょうか。
そんなわけで、現在の日本にもかなりの程度通用するようなこの本の主張を、紹介してみるのも無駄にはならないようです。
なんの証拠もない大量破壊兵器の疑惑を種に引き起こしたイラク戦争で無理やりフセイン大統領を殺し、その挙げ句に疑惑はなかったで済ませたと言う厚顔無恥大統領でした。
こういったブッシュを「魔法使いの弟子」と表現する人たちがいたそうです。
そして、日本は言ってみれば「魔法使いの弟子の家来」だったそうです。
アメリカの行動はアメリカ国内の識者だけでなく、世界中の人から疑惑を持って見られました。
そして、アメリカに何の疑問もなく付いて行くだけの日本もそれと同様と見られているということです。
江戸幕府の鎖国政策は、幕府の衰退とともに破られ、明治政府は開国という政策を取りました。
最初は欧米に対して格差のある不平等条約の制限がありましたが、それを是正するとともに、欧米を真似た海外への拡張政策を取ったのが日本です。
しかし、その当時にはすでに欧米でも植民地政策は行き詰まり、そこからの脱却が模索されていました。
日本はそのような時代遅れの政策を一所懸命模倣するだけだったのです。
そのような拡張主義はあえなく失敗し、アメリカによる占領を経て一応講和条約を結び独立回復しました。
しかし、その実態はアメリカにすべての交渉権を与えてその庇護のもとに生きていくだけの「第二の鎖国」だったのです。
冷戦下で安保はすべてアメリカに任せ、経済活動だけに専念することで高度成長を成し遂げ、対外債権を獲得していきました。
90年代には世界最大の債権国となったのですが、外交はそれまで同様アメリカの指示通りに動くだけの鎖国国家だったのです。
これがいつまでも続くのならまだ問題発生はなかったのですが、さすがにそうは行きません。
アメリカが自ら日本の保護者であることを放棄しました。
日本が経済成長を成し遂げ、その分野でアメリカを凌駕していることがアメリカにも認識されたのです。
アメリカは日本の保護をもはや止めているにもかかわらず、日本の一部の政治家や官僚はそれを自覚せずにアメリカの保護を求める姿勢を変えていません。
冷戦が集結し、ソ連や東側諸国を仮想敵国として作られてきたアメリカの戦略もその相手が居なくなってしまいました。
相手なしならそのような戦略は不要とすればよいのに、それでは軍産複合体の仕事がなくなるために、次の仮想敵を作り出すことにやっきです。
ちょうど、台頭してきたのが中国なので、それを仮想敵に祭り上げました。
アメリカの指示に忠実な日本政府も中国を敵視した政策遂行に進んでいます。
ただし、問題は中国が実際はアメリカの経済活動に完全に取り込まれた活動だけをしているということです。
中国の工業生産がいかに世界を席巻しているといっても、それはアメリカに対して納入する製品を作るだけのものであり、独自の経済活動ではありません。
しかも、アメリカの弱体化した財政を尻拭いしてきたのは、日本そして中国です。
アメリカが放漫財政で垂れ流した国債を長らく買い続けてきたのは日本でした。
日本が買いきれなくなったら、次は中国が買い続けています。
かつて、韓国がアメリカ国債を売却する可能性をほのめかしただけで、大きな混乱が起きました。
日本や中国がアメリカ国債売却ということになれば、世界経済が破綻します。
このような三角関係にあるのが、アメリカ・中国・日本の関係と言えます。
反発しながらも頼り切っている、そして破滅するのも一蓮托生ということです。
この時点では、日本の再生には外務省の再生が欠かせないと著者は言っています。
今ならさしずめ財務省でしょうか。
いずれにせよ、今の官僚制のために日本は破滅に向かっていきそうです。
- 作者: カレル・ヴァンウォルフレン,Karel van Wolferen,井上実
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/08
- メディア: 単行本
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