「無駄学」「誤解学」といった本も書いておられる西成さんですが、その論議の進め方は極めて科学の原則に従ったものと見えます。
しばらく前に「誤解学」という本を読みましたが、その中で「渋滞学」に関する言及もありました。
渋滞学の本には、様々な方面からまったくピント外れの批判が来たと書いてありましたので、その点の興味も少しありました。
とはいっても、この本は渋滞学を一般向けに簡単に解説したものですので、さほど文句のつけようもないかもしれません。
渋滞と言ってすぐ思い出されるのは、車の交通の渋滞でしょうが、その他にも扱われるものとしては、人間の行列(窓口や商店など)、インターネットの接続といったものは考えやすいものですが、他にも在庫の渋滞、人体の中の血流の渋滞といったものも同様のようです。
渋滞を理論的に扱ったものとして、セルオートマトン理論、ランダムウォーク、といったものもありますが、流体力学の応用と言うことも行われているようです。
行列を待っている人はどのような行動を取るか、もとは電話交換機の効率の研究というところから始まったようですが、すでに20世紀初めにアーランという研究者が論文を発表しています。
その後は道路の渋滞が増えて来たり、人口集中で各所に行列待ちができるようになり、その理論の応用を発展させる動きが強まりました。
道路の渋滞を理論的に扱う場合には、ニュートン型の運動理論では解析できない部分が多く、これには流体力学の方がふさわしいことが分かってきました。
特に、水などの密度を一定として扱うことのできる非圧縮性流体力学より、密度が変化する空気などの圧縮性流体力学の方が道路渋滞に応用できるようです。
これは、自動車同士の車間距離が渋滞の程度によって変化するということが、密度が容易に変化する空気の移動の場合と類似し、その知見が応用できるということです。
まあ、細かい理論的なところはよく分からないので略しますが。
高速道路で特異的に渋滞が発生するサグと呼ばれる部分、緩やかな上り坂やトンネルの入り口などでは、自然に速度が下がることが追従する車のブレーキにつながり渋滞を生むそうです。
だからといって、上り坂になる箇所に「加速せよ」という標識を出すわけにはいかないのが辛いところで、せいぜい「上り坂、速度回復」といった書き方しかできないそうです。
個人個人の注意で渋滞を防ぐ運転方法と言うのもあります。
3台以上先の状況まで注意し、急ブレーキ急ハンドルをしないこと。
合流地点では譲り合ってスムーズな運転ができるようにすること。
交通量が増えても車間距離を詰めすぎないこと。
等々だそうです。
カーナビのジレンマと言うのもあり、リアルタイムの渋滞情報が得られる機種も増えてきましたが、これも「皆が付けてしまうと一緒の行動になる」ということがあります。
迂回路に行く車が少ないうちは渋滞緩和になりますが、皆がそちらに行くとかえってひどい渋滞になるとか。
トイレやレジなどで有名な話に、「フォーク待ち」と「並列待ち」の問題がありますが、整然とできるならば確実に「フォーク待ち」の方が効率が良いようです。
それは、並列待ちでは必ず窓口(またはトイレ)に稼働していない時間ができるからだそうです。
面白いことを研究している人がいるもんだというのが感想です。