本書副題は「先住権・文化継承・差別の問題」とあります。
アイヌ民族が特に北海道においての先住民族であるということは確認されていますが、政府はそれをどうこうするという実際的な政策を取ることはなく、放置されています。
アイヌ民族と名乗っているのは2万人程度ということですが、実際には20万人以上居るのではないかと考えられています。しかし、これまでの厳しい差別の状況からアイヌであることを隠して居る人がほとんどのようです。
本書はこういった問題について活動している方々が、所々で講演した内容をまとめたものです。
内容は様々ですが、アイヌ民族の先住権とはなにかということや、北海道におけるアイヌ民族や文化についての教育、アイヌ文化の伝承、いまだに残る差別といったことが語られています。
かつては、東日本各地にまでアイヌ民族が住んでいたと見られますが、近い過去には北海道、サハリン南部、千島列島に広く住んでいた先住民族です。
日本とロシアが進出してアイヌの土地を奪いました。
1980年代になり、国連では全世界で起きた先住民族に対する侵略について、反省するという動きが見られるようになりました。
日本は長らくアイヌを先住民族と認めることがありませんでしたが、ようやく1997年になりアイヌ文化を守ることのみが認められ、アイヌ文化振興法を作りました。
そして、2008年になってようやく国会で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める国会決議」が採択されました。
この決議の変な名前にも、日本政府のおかしな姿勢が現れています。(何で”求める”?)
しかし、その決議のあともこれと言った施策をするわけでもなく、放置されています。
明治以降、北海道開拓と称して多くの日本人が進出し、肥沃な大地を我がものとしてしまいました。
一方、アイヌにはその残った痩せ地を与え、それまで自由に狩猟してきた動物や鮭を捕ることを禁じました。主要な食糧だった鮭が食べられなくなり餓死したアイヌも多かったそうです。
そして日本の教育の中に取り込んだアイヌ達に対しても差別が激しかったため、アイヌであることをできるだけ隠すということも生じてしまいました。そのため、アイヌ文化というものに全く触れないままのアイヌ人も多いようです。
いまだにアイヌ差別を公言する日本人も多いようで、北海道でほそぼそと実施されている学校でのアイヌ文化紹介で、子どもたちはそれに触れても家に帰って親に話すと「そんなことは話すな」と言われることがあるとか。
さらに、アイヌ人の活動に若干の補助金が出ただけでコソコソと批判する人間も居るようです。
ヘイトスピーチというものに対する批判というものもありますが、それが在日韓国・朝鮮人に対するものばかりのような思い違いもあります。
アイヌに対するヘイトスピーチというものも大きな問題なのですが、それが無視されてヘイトスピーチ規制法(2016年)は正式名称を「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取り組みの推進に関する法律」にされてしまいました。
「本邦外出身者」では「アイヌ民族」が入ってきません。
その認識が国会議員には無かったのでしょう。
なお、書名の「イランカラプテ」とはアイヌ語の挨拶の言葉で「あなたの心にそっとふれさせてください」という意味だそうです。
イランカラプテ アイヌ民族を知っていますか?――先住権・文化継承・差別の問題
- 作者: 秋辺日出男,阿部ユポ,貝澤耕一,門脇こずえ,川村兼一,竹内美由起,野本久栄,結城幸司,アイヌ民族に関する人権教育の会
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2017/05/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
人種差別の話は、アメリカの黒人だけではないということがよくわかる本です。