爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日韓メモリー・ウォーズ 私たちは何を忘れてきたか」朴裕河、上野千鶴子他

日韓の関係は非常に悪くなっていますが、そこには両国の間で認知されていることの食い違いが大きいことが存在します。

「歴史問題」として取り上げようとしてもその認知のされ方が相互で違えば対話にもなりません。

 

その違いと、それを埋める方法とを、「メモリー・ウォーズ」つまり記憶の闘いと名付け、上野千鶴子さんをコーディネーターとして福岡市で開いた福岡ユネスコ国際文化セミナーの内容に一部を補筆したものが本書です。

 

参加者は、上野さんの他に韓国で慰安婦問題について学術的な記述で出版したために大きな問題を引き起こして訴訟まで起こされた、朴裕河さんに若手の研究者の金成ミンさん、水野俊平さんでした。

 

セミナーの進め方としては、朴さん、金さん、水野さんの講演を実施し、その後上野さんをコーディネーターとしてパネルディスカッションを行ったということです。

 

最初に上野さんが基調講演をしていますが、その中でごく簡単に太平洋戦争後の日韓の歴史をまとめています。

1945年に日本が敗戦し、朝鮮半島は植民地から脱しました。

しかし、朝鮮戦争が起き、分断国家となりました。

その一方で、戦争特需で日本は経済復興し、その後の高度成長につながっていきます。

韓国は戦争状態継続という状態のまま軍事独裁体制が続きます。

1952年にサンフランシスコ講和条約で日本は西側諸国と国交回復しましたが、朝鮮半島出身で日本に留まっていた人々からは日本国籍を剥奪しました。ヨーロッパの植民地支配国はそこが独立したあとも二重国籍を認める例が多かったのですが、この仕打は日本が植民地支配のツケを払わなかったと写りました。

1965年に日韓条約が成立し、国交正常化したのですが、その相手は軍事政権で民衆の意見など何も聞かなかったことが後の問題化につながります。

1991年に冷戦体制が崩れたのですが、慰安婦問題の勃発もちょうどこの時です。世界の動きと連動したところがありました。

 

朴さんの講演でも古くさかのぼり広く捉えた視点から話されていますが、日韓関係の問題点の多くは日本で朝鮮半島の植民地支配というものを忘れ去ってしまったことに原因があるということです。

慰安婦問題というものも長い間「戦争責任」あるいは「戦争犯罪」としてのみ考えられてきましたが、実は男性中心主義的家父長制国家であった日本帝国の、「帝国責任」「支配責任」として考える必要があるということです。

1990年代以降、過去の歴史を背景に持つ「四大問題」に対しての意識が大きくなりました。

教科書問題、慰安婦問題、独島問題、靖国問題です。

これらは、1965年の日韓協定の際に植民地支配の様々な問題について何も触れられなかったために、複雑化ししこりが大きくなりました。

この合意は、日韓の間の問題というよりは、日米同盟、米韓同盟というものを中心としたものであり、冷戦体制に対するためのものと言えます。

したがって、韓国の中でも政府と民衆の間で認識がまったく異なるものです。

政府は現在までその合意に賛成し維持し続けていますが、市民の多くは反発しています。

2015年の慰安婦問題合意も日韓協定に沿ったものであり、市民の反発もさらに拡大しました。

慰安婦というものが植民地支配の枠組みの中で進められてきたことを振り返り、その当時には日本人が朝鮮半島に50万人もいたこと、慰安婦募集に軍関係だけでなく民間でも日本人、朝鮮人問わずに協力した者が居たことなど、考えなければならない問題はたくさんあります。

そのような事実について、記憶というものは多数存在します。どれもが事実なんですが相互に矛盾するものも多いようです。しかしその少数の事実を「例外」として扱うというのも間違いということです。

 

 水野さん(北海商科大学教授)は若い世代の日韓双方の認識ギャップということについて語っています。

嫌韓」という言葉が広く流布していますが、この言葉はまだ辞書にも出ていない新しいもので、その始まりは日韓共催サッカーワールドカップからであるということです。

この時期は韓流ブームというものも起こっていますが、それと同時に嫌韓というものも広まっていったことになります。

それ以前には、日本の一般人には韓国に対してほとんど関心も無かったからだそうです。

しかしちょうどその頃にインターネットが爆発的に普及しました。そこであっという間に嫌韓のあれこれが広まりました。

韓国人の多くは、日本人が韓国を嫌うのは領土問題のためだと考えているそうです。しかし、実際は日本人は韓国との領土問題(独島)などはほとんど関心を持っていません。

それよりも、李明博大統領の天皇謝罪要求発言などの影響が強かったようです。

 

また、ネット上には日本でも韓国でも同様に、まったく根拠のない相手国に対するデマやホラの類が多く出回っており、それが互いの印象を悪化させることになっているようです。

こういったことはきちんと批判して否定しておかなければ影響がいつまでも続くということになりかねません。

 

民主主義が問われている時代であるということなのでしょう。

そこで日韓双方の人々がきちんと声を上げていくのが大切なことなのでしょう。

 

日韓メモリー・ウォーズ《私たちは何を忘れてきたか》

日韓メモリー・ウォーズ《私たちは何を忘れてきたか》