STAP細胞事件とは、山中教授のiPS細胞のような何にでも分化できる万能細胞ですが、それよりはるかに簡単な処理で体細胞から作り出すことができるとして、大きな注目を集めたものの、その実験についての疑いが集中し、結局は論文取り下げ、所属の理研も揺るがすという騒ぎになったものです。
その発表が2014年1月、その後すぐに世界各地から疑問の声が上がり、理研も調査、7月にはネイチャーの論文取り下げ、さらに研究責任者の笹井芳樹氏が自殺してしまうということにもなりました。
この本は、その事件の詳細を、毎日新聞科学環境部で最初から最後まで取材にあたっていた須田桃子さんが、その経過、取材相手とのやり取り、何度も行われた会見での内容など、非常に詳しく逐一を書き残しています。
須田さん自身が、このような問題についての知識も問題意識も兼ね備えている方であり、取材相手となる関係者からも信頼を受けていたということがよく分かります。
毎日新聞も、科学関係は非常にレベルが高いということが見て取れます。本当はウチももう少し読んでいたかったのですが。(余談でした)
須田さんは最初の理研の発表記者会見の前に以前から取材していた笹井氏に問い合わせたところ、「絶対に記者会見に来るべき」というメールを受け、期待をふくらませたそうです。
そして、例の小保方さんの記者会見でのSTAP細胞発表ということになり、様々の情報が付け加えられ、あの騒動となりました。
小保方さんはハーバード大学バカンティ教授の下で研究をし、帰国して理研に採用され、再生医学分野では有名であった笹井さんがバックアップする形で研究室を持てることとなったところでした。
それも、iPS細胞に代わる可能性もあるという期待があってのことでした。
しかし、ネイチャーに掲載された論文にはすぐに疑問の声が上がるようになります。
論文に使われた画像が捏造されたとか、別のものだとか、最初は単なる取り違えとしていたのが徐々に根本部分への疑問に発展していきます。
そのあたりについても、須田さんは関係者に対する聞き込みをしていきます。
笹井さんや共同研究者の若山照彦さん(その時は山梨大学)などにも直接メールや電話での連絡をしていますが、いずれもその対応は真摯なものであり、偽造に加担したということは無い模様でした。
こういった描写は分かりやすく、臨場感にも富むものです。
ただし、小保方さんには直接連絡を取ることはできず、やがて入院してしまうということでした。
したがって、この本でも描写も笹井さんや若山さんなどの対応が主となっており、彼らの気持ちの変化というものを追っていくこととなります。
最後は笹井さんが自殺したという衝撃的な連絡が入ります。
彼や若山さんは、STAP細胞が作られたかどうかという根本の問題には最初から関与せず、監督もできていなかったということです。
一つのグループとして大きな作業をしていても、それぞれは専門家同士ということで立ち入ることが無かったのが間違いの理由でした。
しかし、その責任だけは重くのしかかり、特に理研での監督責任がある立場であった笹井さんに対する風あたりは強かったのでしょう。
こういった騒動がわずか4年前だったとは思えないほど遠い話のように感じます。