日本の子どもたちの学力が落ちているのではないかという、学力低下論争というものがありました。
それは「ゆとり教育」のせいであるとされ、またも方向転換されています。
しかし、そもそも「学力」というものがどういうものなのかということも同意されているとは言えません。
著者は東京大学教育学部に在職中に、学力調査を行うプロジェクトを実施しそこから公立学校でも特異的に学力が高い学校を見出し、その実情を調査したそうです。
そのような研究の結果から、「学力の樹」という考え方の提示、そして地域力を生かして子供の学力向上を図った地域の紹介というものが描かれています。
学力の構造というものを考えます。
ペーパーテストで簡単に測ることができるような、知識の詰め込みで獲得できるような「学力」というものがあります。これを「A学力」と考えます。
次に、ペーパーテストでは測ることが難しいが、学校の成績や試験の結果に大きく関わってくると見られる学力構成要素、一般に「思考力」「論理構成力」「考える力」「表現力」といったものがあります。これを「B学力」とします。
そして、最後に点数化はそもそもできないが、前記2つの学力を伸ばす基礎とも言えるような「意欲」「関心」「態度」というものがあります。これを「C学力」とします。
この3つの学力はどのような関係があるのか。
これを著者は「学力の樹」と表現しています。
つまり、C学力が樹の根にあたり、すべての基礎となる。
B学力が樹の幹にあたり、A学力が樹の葉にあたるということです。
もちろん、根が一番大切ということです。
著者のグループが2001年に実施した学力調査では興味深い結果が得られています。
子どもたちの学力は確かに低下しているといえるものです。
そして、それは「できる子」「できない子」に完全に二極分化しています。
その対象の子どもたちの家庭環境などもアンケート調査をすると、できる子という子どもたちは裕福で安定し、文化にも興味を持つ余裕のある親のいる家庭で育っているということです。
できない子たちはそうではない家庭ということです。
そのような家庭というのは、収入も高い階層と重なるため、居住地域も偏ってくるとか。
高級住宅街に住む人たちは収入も高く、その子どもたちも学力が高いということが見て取れるようです。
その中で、関西地区のある学校でそのような現象に反するところがあるようです。
同和地区という、被差別部落を学区に含む学校で、それ以外にも低収入の家庭が多い地区でありながら、かなりの高学力という結果を出した学校があるとか。
そのような学校では、子どもたちの「学力の樹」を育てるための、地域としての役割を十分に果たしていると言えるようです。
子供の学力と、家庭の収入の関連性という難しい問題ですが、それを学校と地域ぐるみの対応で解消できるのかどうか、そう簡単には行かないのでしょう。