爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「大人の食育百話」橋本直樹著

食育ということが強く言われ、家庭や学校でも食育を考えた教育というものに取り組まれています。

しかし、その担い手である親や教師、そして専門家たるべき栄養士の人々も、基礎的な知識が無い場合が多く、あやふやな情報などに振り回されることも多いようです。

 

そこで、食品メーカーで研究所などを歴任、その後大学教授に転進したという著者が食育の基礎知識を100話にまとめて解説しようという本です。

 

ただし、食育のための知識と言っても、農業の実態からエネルギー漬けの食品生産、添加物や農薬の実状、日本の食生活の洋風化、外食や中食の蔓延、栄養問題、健康食品などと、非常に広い範囲に広がっているものであり、それを100話というのでは一つ一つについてはあまり深く触れることはできなかったようです。

 

あくまでも、基礎知識の基本だけをさらっと通したという感じを受けます。

専門書ではないので、もっと知りたい人のための参考文献リストというものもなく、その必要がある人はまた参考書探しに迷うことにもなりかねません。

 

ただし、第62話に「食品不安を煽るマスコミ報道」と題して注意を促しているにも関わらず、本書副題に「日本の食が危ない」とあるのは矛盾でしょう。

おそらく、出版社の編集者がこうした方が売れると判断したのでしょうが、書かれている内容に大きな間違いはなかっただけに残念です。

 

また、国内の農業を振興しなければならないという主張はそれなりに正当性があると思いますが、第18話「有機栽培農家を増やす」ことが国内の農家を応援することになるというのはちょっと的外れのようです。

コスト高になることは避けられないので、消費者も高い有機農産物を理解して買って応援し足りない所は政府から補償するということですが、なぜ高いものを買わなければならないかという理由付けが難しいはずです。

それこそ、「有機農産物は安全安心」といった根拠のない主張と重なってきます。

 

第21話「石油漬けになっている輸入野菜」というのは、輸送に多くのエネルギーを使うからということですが、国内輸送にも多くのトラックを用いている国産農産物は距離だけでは測れないエネルギー使用過多の状況があります。

さらに、生産への石油などの多用はデータ的にも明らかであり、文中にあるように「省エネルギー地球温暖化防止のためにも、野菜、果物はできるだけ国産のものをたべることにしてはどうだろう」などとは、簡単には言えないはずです。

 

いくつかの点で主張に矛盾があるところもあると感じましたが、多くの部分では妥当なものと言えます。

ただし、最初にも書いたようにどんな人がこの本を読んで参考にできるのか、読者像がやや不明確に感じます。

 

大人の食育百話―日本の食が危ない

大人の食育百話―日本の食が危ない