爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「侠骨記」宮城谷昌光著

宮城谷さんの本は以前は読んでいましたが、このところ少しご無沙汰していました。

久しぶりに手に取ったこの本は、1991年に著者が「夏姫春秋」で直木賞を受賞した頃に出版された初期の作品群の一冊です。

 

著者の作品には、中国古代を扱ったもの、著者故郷の三河周辺の戦国時代の歴史、といったものが多いのですが、特に初期のものは中国古代に題材をとったものが多くなっています。

 

この本は4篇の短編からなっていますが、春秋時代の魯の国の曹カイ(史記では”曹沫”)の「侠骨記」、古代の伝説的帝王の俊(通常は”舜”)の「布衣の人」、周王朝初期の召公奭を描いた「甘棠の人」、春秋時代秦の宰相となった百里奚の「買われた宰相」です。

いずれも架空ではなく実在の人物を描いたもの(舜はちょっと怪しいですが、伝説上は実在と見なされます)です。

 

ただし、その描かれた人物像は通常考えられているものとは少し違うものも含まれています。

 

曹沫は史記では「刺客列伝」で扱われており、国の会合の席で斉の桓公に刀を突きつけて脅したという面ばかりが有名ですが、この本の中では魯の国の庶民の中から抜きん出て重用してくれた魯公同のために忠義を尽くした人として描かれています。

 

これはどうも宮城谷さんがあらゆる史料を精査し、その中で作り上げた人物像によって小説を作り上げているからのようです。

曹沫も単に刀を振り回すだけの刺客ではなく、長く魯公に仕えたような跡が残っているからこその人物像への肉付けなのでしょう。

 

しかし、そのような参考資料の厖大な量というものを感じさせないような軽い仕上がりの小品となっています。

それもこの本の魅力かもしれません。

 

侠骨記 (講談社文庫)

侠骨記 (講談社文庫)