「天然」という言葉は使い方の難しいものですが、この本の場合の「天然発酵」とはどうやらスターターとしての培養微生物をも加えることのないような、自然のままの発酵ということを指しているようです。
私は、何度もこのブログで書いているように、以前は発酵会社に勤めており仕事として発酵をやっていましたが、どうもこの手の「天然発酵」というものに対してはあまり良い印象を持っておりません。
確かに、酵母や乳酸菌といったものは自然にも存在しており、それを取り込むことによって発酵を進ませるということは可能ではあるのですが、その他の微生物が入り込むことによる腐敗というものの危険性は常にあるからです。
その点、本書著者は失敗したら捨てればよいという潔い?態度のようですが、まあ商業的には成り立たないのは明らかです。
こういった姿勢は、著者が同性愛者であり、かつては完全なベジタリアンであったということも関係しているのかもしれません。現在は乳製品は食べるようですが。
さらに、エイズを発症し治療を続けているということで、栄養を取らなければならないという思いもあり、発酵食品を自ら作りそれを食べるということにつながっているようです。
本書では世界各国の発酵食品の紹介と、その詳細な作り方まで語られています。
それが単純なレシピだけではなく、そこから発想された事ごとについての随想も自然な形で付随しています。
その意味では味わいのある文章なんでしょうが、ちょっと癖の強いものかなというイメージです。
豆の発酵食品の紹介で、日本の味噌も触れられていますが、そこでも「味噌を作るには糀を使わなければならず、これがこの本で初めて紹介する、厳密に言うと天然発酵ではない発酵になります。」と綴られており、極めて特殊な「天然発酵」観に彩られているものであることが分かります。
ちょっと、ついて行けないな。
まあ、興味のある方はどうぞ。ただし、酒類の自製は日本では酒税法に違反しないようにご注意を。
- 作者: サンダー・E・キャッツ,Sandor Ellix Katz,きはらちあき
- 出版社/メーカー: 築地書館
- 発売日: 2015/02/27
- メディア: 単行本
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