国の財政は危険な状態であるという認識は誰にでもあるのでしょうが、それを何とかしようとして増税を持ち出すと必ず「その前に国の歳出の無駄をはぶけ」という主張が出てきます。
確かに、国の支出について毎年調査を続けている会計検査院の発表でも数十億といった無駄の指摘が毎回出されていて、無駄の存在と言うのは明らかなのですが、ではそれを無くしていけば財政は持ち直すのでしょうか。
そんなことは無いというのが、経済学者で公共経済学がご専門という著者の意見です。
無駄は確かにあちこちに存在し、それは無くさなければならないのは当然ですが、どうやらその絶対額は大したものではないようです。
また、無駄と言っても国の財政支出には「相対的無駄」とも言うべき、そこに依存している人間が少なからず存在するものも多いようです。それを減らすならそういった人々は収入を失うことにもなります。それをどの程度進めていくか、話はそう簡単なものではありません。
無駄を無くすことが至上命題という考えもあります。
しかし、「まず無駄をなくせ」というのは一見もっともらしく見えるのですが、無駄と言っても結果としてやむを得ず生ずるものもあり、削減すると国民の一部に痛みを与えるものもあります。
国民の大多数が一致して無駄であると思えるものは意外に少ないものです。
結果として無駄になる歳出であっても、災害対策や軍備などもしもの場合には必要なものもありますが、何もなければそれらは無駄と言えます。それを削減することは危険です。しかし際限のないような支出もできません。
無駄を気にしすぎるのも相当な弊害がありそうです。
たとえば民間で賞味期限が厳しすぎると無駄が出るといってもそれを避けるために期限偽装などは許されません。
また、賞味期限を守りながら無駄を最少にするというシステム構築に多額の費用をかけるというのも逆に無駄です。
ただし、民間と比べて政府歳出に無駄が多いというのは間違いないようです。
それは、政府予算が硬直化しており、予算処理も予算の消費だけが目的となるようなおかしな例が頻発します。
また民間では予算処理を削減してコストを下げて利益が出れば担当者の評価が上がるということがありますが、政府行政機関では利益創出を業績とは認めず仕事の遂行だけが業績であるということがあります。
政府歳出の無駄にも2種類あり、それは「絶対的無駄」と「相対的無駄」としています。
絶対的無駄とは、「公共サービスの質を劣化させずに削減できる歳出」と、「歳出それ自体の便益がマイナスであるもの」です。
最初の定義に当てはまるものは、過剰な公務員の福利厚生費用や民間給与を越える公務員給与上乗せ、公共事業談合による上乗せ費用があたります。
第二の定義に当てはまるのは、それ自体が地域住民にマイナスをもたらすような公共事業(宍道湖や諫早湾の干拓など)です。
会計検査院の予算執行調査は基本的にはこのような絶対的な無駄のごく一部のチェックをしています。
相対的な無駄とは、便益とコストの比較で初めて分かるようなものであり、分かりにくいものです。
例えば、多額の建設費用の割にあまり便益を生まない公共事業(青函トンネル、整備新幹線など)、医療における過剰な検査、裕福な高齢者への公的年金給付、豊かな地域への補助金などです。
これらは当事者や一部の地域にとってはそれなりのメリットがあるために実施されます。しかし、公平にコストと便益の大きさを評価すると成り立っていません。
本書では以下に各部門の無駄の実情を詳細に検討されています。
第2章 特別会計の無駄
第3章 人件費と政府消費の無駄
第4章 公共事業の無駄
第5章 補助金の無駄
その内容についてはここでは詳述は避けますが、誰もが考えるべきものが多いようです。
これらの無駄の総額というものを試算してますが、会計検査院の指摘の金額はせいぜい毎年数百億円であり、一般会計予算の0.1%以下です。ごく一部のみと言えるでしょう。
それでは、本当の無駄の金額はどの程度か。
あくまでも試算ですが、絶対的な無駄としては人件費で2-3兆円、公共事業費で1兆円、地方行政や独立行政法人まで含めて約6兆円、GDP比で1%程度です。
一方、相対的な無駄というものは人々それぞれの立場でまったく評価が違うので一律のの試算も不可能ですが、上記の絶対的無駄の金額よりははるかに大きいものになるでしょう。
大まかに言って、絶対的無駄の数倍、国レベルで5-10兆円、地方分も合わせると10-15兆円に上るものと推測できます。
こういった無駄の削減というものは財政再建のためにも不可避なのですが、利害関係者が多数居るためにどうしてもこの実施は先送りされがちです。
公営事業を民営化することで無駄を省き売却益も上げられると言われますが、これはその場限りの収益でしかありません。
預金封鎖という最後の手段も財政再建の方法として挙げられますが、とんでもない話です。現代では銀行預金は決済手段としても利用されており、いくら窓口での預金引き出しを制限しても事実上口座決済の形で流れ出します。
それも禁止するとなると経済活動は崩壊します。
本書の最後には、無駄をなくすための具体的な提案というものが書かれています。
意外にも思えるのが、「選挙制度の改革が必要」という指摘です。
歳出に無駄が多い原因は実は「選挙制度の欠陥」にあるということです。
この欠陥のために、地域の特定業種の利益を最大にするような政治家が予算獲得に活躍し、それを既得権益化することが歳出の無駄につながっているからだとしています。
選挙区の区割りを決めるのは、議員ではなく第3者機関に任せるという提案もされていますが、これも私の意見とまったく同じです。
(まあ小選挙区制にこだわるとどうせうまくいかないとは思いますが)
やはり根本から見直さなければいけないようです。