爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「生命とは何だろう?」長沼毅著

生命で溢れている地球ですが、これがどのように発生し進化してきたのか、まだまだ分からないところが多いようです。

 

生命の発生からその進化、そして最後の人類の誕生から未来まで、生命全体を綴った生物学者長沼さんの本ですが、間違いないところを扱った教科書のようなものではなく、かなり不確定部分も大胆に書いた随想のようなものです。

 

したがって、そこまで言って良いんかと思わせるところもあるとともに、著者の思いがより分かりやすく伝わってくるように感じられます。

 

生命の起源はどのようであったのかということは、重要な問題ですがもちろん、確定的なことは分かっていません。

原始の地球でアミノ酸ができたかどうかを実験したのはスタンリー・ミラーというアメリカの化学者で、メタン・水素・アンモニア・水蒸気を容器に詰め、電気放電を繰り返してアミノ酸が生成するのを確かめたというものですが、これは確かに起きうる現象だということは分かりますが、その先のアミノ酸がタンパク質になるかどうかは問題です。

生物反応では酵素がいとも簡単にアミノ酸をタンパク質に作り変えますが、無機反応でこれが起きるかどうか難しいものです。

火山の噴火口のような高熱環境で作られたという説もありますが、著者はこれには懐疑的です。できたとしてもその量はごく僅かで生命につながるのは難しいでしょう。

著者は、黄鉄鉱のような鉱物の表面で濃縮されてできたのではないかと説明しています。表面代謝説と名付けています。

活性炭のような構造ですので、必要な物質が接近して反応できるのではないかということです。

 

そのようにできたかもしれない「生命」ですが、では生命の定義とはなんでしょう。

それは、「代謝」「増殖」「細胞膜」「進化」だそうです。

これらすべてが揃わなければ生命でないとは言えないようですが、地球の生命はこれを満たします。

ただし、どのような生命でも少なくとも「代謝」はあるでしょう。

これが生命活動の本質と言えるようです。

 

誕生した生命は徐々に進化をしてきました。

初期に発生したシアノバクテリアという微生物は、光合成ということを始めて、当時は大量にあった二酸化炭素から酸素をどんどんと作り、地球上の酸素濃度を上げていきました。

これを「大酸化イベント」と呼びます。

ただし、その頃のシアノバクテリア二酸化炭素に水素を付ける反応を行うのに、硫化水素からの水素を使いました。

しかし、徐々に変異した生物の中に、クロロフィル葉緑素)を持つものが表れました。これは、硫化水素よりはるかに大量に存在する水(H2O)から水素を取り出しました。そのため爆発的に増殖し酸素の増え方も格段に上昇しました。

こういった酸素濃度の上昇は生物の進化にも大きな影響を与えました。

多細胞生物の誕生もこれが関わっていたようです。

 

生物は多細胞化し徐々に大型になりました。

そして、5億4200万年前からのカンブリア紀に様々な生物種が登場するカンブリア爆発が起きます。

その前のエディアカラ生物群は大量に発生したもののそこまで確固とした身体の構造が作られていなかったのですが、それがカンブリア紀になって全く異なる進化を始めました。

エディアカラ生物群の発生の前には地上の海全体が大量のプランクトンのような微生物で濁っていたと考えられるそうです。

それが、大型生物の大量発生でそのようなプランクトンを食べてしまうことによって、海がきれいになり太陽光が深いところまで届くようになりました。

そこで「目」が発生したということです。

目を持つ生物が出現すると、それは他の生物を襲って食べるようになりました。

相手も黙って食べられるだけではなく様々な進化をするようになります。

こうやって、生物種の多様化が一気に進んだと考えられるそうです。

 

デボン紀後期やペルム紀末には、海中の酸素濃度が一気に低下する酸欠状態が全地球的に起きたと考えられます。

そこで海中生物を中心に大絶滅が起きました。

これにはこの時期の大陸配置も関わっていました。

現在の大陸配置では、南極とグリーンランド付近で海水が冷やされて大量に酸素を含み深海に沈み込みます。

しかし、ペルム紀末の大陸配置はひとつの超大陸と超大洋があるだけだったのです。

すると赤道の付近で温まった海水は地球の自転で東西方向に流れますが、それが超大陸にあたって南極と北極の方に流れ込み地球全体が温暖化することになりました。

さらに、海洋中の植物プランクトンが増えすぎました。陸地から大量のミネラルが供給されたこともあり、超大陸付近の浅瀬では大量発生しました。

これが死ぬと浅瀬の中に大量のヘドロとなって溜まりました。

これが実は現在の石油の元となったものです。

したがって、当時の浅瀬であった現在の中東、インドネシアベネズエラなどに特に原油が存在する理由となっています。

 

現生人類の属するホモ属はおそらくアウストラロピテクス属から進化し、いまから260万年くらい前に分化しました。

様々な種が現れては消えていきましたが、20万年ほど前に現生人類のホモ・サピエンスが誕生しました。

その最初の15万年と最近の5万年では大きな違いがあり、それは知能だそうです。

7万年から5万年前のいずれかの時期にアフリカを出て全世界に広がりました。

それはせいぜい数百人の規模の集団から始まっていたようです。

彼らは他のグループと比べても特に知恵や技術力が高かったということです。

空間認識力も優れ、集団での狩りも得意でした。

さらに「好奇心」というものが強いのも確かです。

そうでなければ、そこまで世界各地に行く必要はなかったはずなのに、山を越え海を渡って行きました。

どうやら「遊び」や「探究心」というものが特に強かったようです。

 

これからの人類がどうなるか、進化するか滅亡するかでしょうが、ホモ・サピエンスには非常に強い好戦的性質があるのは確かです。

それとともに、それを制御する知性が備わっていると著者は希望を抱いています。

それは「協調性遺伝子」というものですが、他者と強調できるという性質が強い人が指導すれば世界人類が共存していけるということでしょう。

 

最後のあたり、ちょっと人間を買いかぶり過ぎではないかとも感じます。

また、「出アフリカ」した種族は「知恵や技術力、探究心が強い」というのもちょっと気になるところで、「ではアフリカに留まった人々はそうではないのか」と思わせるものがあります。

まあ、著者の随想と考えれば仕方のないところかもしれませんが。

 

生命とは何だろう? (知のトレッキング叢書)

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