すでに資本主義は末期的症状を呈しておりやがて終焉を迎えるという主張をされている水野和夫さんが、2016年に出版された「国貧論」という、刺激的な書名の本です。
内容は三部に別れており、第1章が「国貧論」第2章は「資本主義の黄昏」、第3章が「21世紀の資本論」となっています。
書き下ろしではないようで、様々なところに発表したものを再構成されたようです。
ちょうどこの本が出される少し前の2016年1月に日銀は前代未聞のマイナス金利導入を決めました。
日銀の黒田総裁は2%の物価上昇を目指して異次元金融緩和を導入しましたが、その時点まで3年を越えてもいまだ目標到達どころではなく、そのためのマイナス金利でした。
しかし、水野さんはこの決定は国民の金融資産に対して課税をするに等しく、それを日銀の独断で実施するのは民主主義に反するとしています。
多くの学者などは、これがハイパーインフレにつながると警告を発しました。
しかし、実際はハイパーインフレになるのではなく、国民から徐々に金融資産を取り上げるという、資本主義の終焉というべき自体に向かっています。
著者は、資本主義というものは利子率、利潤率によって決定づけられるとしています。
ある額の資本を投じ、極力多くの利潤を得ることが資本主義の基本です。
それなのに、利子率が低迷するということはどういうことか。
日本では1995年以降極めて低い利子率のまま20年経過しています。
利子率が2%以下では資本を投下して工場やオフィス、店舗を建てても利潤は得られないということです。
そのため、過剰な資本は金融バブルに向かいます。そしてバブルが弾ければ中間層以下の人々から職を奪いつつ、公的資金を注入と言ったことが続けられています。
資本主義の先進国がこれまでに行ってきた、「原料資源を安く仕入れて高い付加価値を作り出して製品を売る」という構図がなくなってきています。
そのために、資本は利潤を得るための新たな空間を生み出してきました。
それがアメリカが主導する電子空間と金融工学を結びつけた世界でした。
しかし、これはバブルそのものです。アメリカのサマーズ元財務長官が語ったように、「3年に1度バブルが起きる」ことになります。
このような「資本主義の黄昏」にあたっては、次にどのような世界になるかという難しい予測をしなければなりませんが、いずれにせよ現在の社会体制からは「撤退戦」をしなければなりません。
著者が危惧するのは、「撤退戦に最も不向きなタイプの政治家が現在宰相として政治をリードしている」ことです。
言うまでもなく安倍晋三のことです。
(そしてこの本出版以降2年たっても同様です)
狭い視野、浅い思慮、地球儀を俯瞰すると言いながら過去の歴史を少しも学ぼうとしない姿勢は、本来なすべき経済施策の真逆を彼に取らせている。
今後は、否応無しに「ゼロ成長社会」を構想していかなければなりません。
ただし、これは今までの人類がほとんどの時代に送ってきた生活なのです。
GDPがゼロ成長を脱したのは、実は16世紀からの数百年にすぎません。
日本はすでに「定常状態前夜」の状況に落ち着いています。
本来ならばこの後の世界を先取りできるはずなのですが、問題は1000兆以上になる借金です。
国の借金は1000兆円以上ありながら、企業の余剰資金は毎年40兆円以上増え続けています。個人の資産も1000兆円以上あります。これでなんとか勘定が合わさっているのが現状です。
しかし、いずれは国内資金だけでは国債を賄えなくなるでしょう。その時が日本経済の破綻になるのかもしれません。
さらに、エネルギー供給の先行きの不安も大きな危惧となります。
エネルギー価格が高騰すれば、定常状態どころの話ではなくなります。
実は、経済成長が高かったというのは、安価なエネルギー(1バレル3ドルといった石油)があったからこそなのです。
石油価格が高騰したことと、低成長に陥ったということは、無関係ではありえず、成長のためには安価な石油が不可欠であったということです。
2度の石油危機で資源ナショナリズムが台頭し、資源が国際金融資本の管理下から外れると、西側先進国の成長も止まりました。これは必然のことだったのです。
資本主義の終焉というテーマは各方面に波紋をよんでいますが、それについて2015年初めにテレビ番組が作られたというエピソードが語られていますが、その状況が傑作なので紹介しておきます。
水野さんの「資本主義は終わった」と言う問題提起に、若手のパネラーたちが意見を述べるというものだったのですが、そのほとんどが水野さんの主張を勉強するでもなく出席しており、的はずれな意見ばかりだったそうです。
中でも最近テレビ出演も多いM女史は水野さんのことを「中世賛美主義者」と勘違いしてトンデモ発言を繰り返すという、お笑い番組だったとか。
ほとんどの出席者が、資本主義終焉ということについてはまったく理解できておらず、それは彼らばかりではなく大方の学者、エコノミスト、経済人たとも同様のようです。
こういった経済関係者に支えられた政権により、まったく間違えた政策が行われ、さらに傷を深めていくのでしょう。