また貰い物の本です。
長野県の南部の下條村は、山あいの小さな村ですが財政も健全、子供の出生率も高いとして知られています。
それは、前村長の伊藤喜平さんが作り上げてきた村政によるものだそうです。
それはどのようなものだったのか、下條村の出身のテレビタレント、峰竜太さんが取材し、本にしました。
峰さんはお兄さんの奥様が伊藤喜平さんの妹という関係でもあり、また村内各地に親戚知人が多数いるということから様々な証言も得たということです。
下條村は長野南部の中心都市の飯田市の南の接する、人口4000人ほどの山間部の小さな村です。
ご他聞にもれず過疎と借金漬けの村財政で存亡の危機となっていました。
これを変えたのが、村でガソリンスタンドなどを経営していた伊藤喜平さんでした。
村議を勤め、村の行政の覇気の無さ、問題意識の欠如などを見てどうにかしなければと考えたそうです。
村議の時代には村の下水道整備事業に関わり、よその町村同様に国からの補助金をあてにして公共下水道整備をするはずだったところ、あまりにも巨額の整備費がかかりしかも下條村のような山間部の過疎村には過大な設備となることから、事業見直しをして費用の大幅削減に成功しました。
それから、1992年に村長選挙に立候補、僅差で制して初めて村長となりました。
その当時の役場は過大な職員を抱え、ほとんど仕事をしないような者もいるような非効率な職場だったようです。
まずは職員の意識改革ということで、民間のホームセンターでの販売研修に全員を派遣するということをします。
さらに、できるだけ新人採用を控えて徐々に職員数削減を果たし、人件費を抑えることに成功します。
ユニークなのは、道路補修などの小さな公共工事などは資材を支給するだけであとは住民に任せるという資材支給事業を始めたことです。
農業や土木業などに従事する住民が多いため、簡単な工事くらいなら自分たちでやった方が早いという土地柄もあって、非常に効率的な仕組みが出来上がりました。
また、住民が流出するのを防ぐだけでなく新たな子育て世代の誘致を目指し、格安の村営住宅を建てました。
ただし、そこに住むには条件があり、村や地域の行事に参加すること、そして消防団に入ることだそうです。
こういった条件は国からの補助金を貰っていては付けられません。そのために補助金なしで自前の予算ですべて賄って建設したそうです。
その結果、近隣ばかりでなく都会からも移り住む人があり、村の人口は増加に転じました。
このようなユニークな村長が作り出した「奇跡の村」ですが、最近は他の町村でも定住促進策を打ち出すようになり少し勢いはなくなったようです。
伊藤喜平さんも2016年で6期24年の村長生活を終え引退しました。
地方の過疎の町村が生き残るにはどうしたら良いか、大きな問題です。
下條村は飯田市に近いという好条件や村民の団結なども強いといったことはありますが、村の財政の立て直しなどは参考にしなければならないところでしょう。
なかなか興味深い内容のものでしたが、これはやはり村の出身者である峰さんが書いているということもあるのでしょう。
主人公の喜平さんだけでなく、役場の職員や村民の人々など多くの人の声を直接聞くことができたために濃い内容となっているようです。
人々の話し声まで聞けたかのように感じさせる文章でした。