(編者のお名前の「智」の字は正しくは「ニンベンに皆」という字です)
古今亭志ん朝さんといえば古典落語の名手として知られた落語家でしたが、2001年に亡くなられましたのでもう16年も経っています。しかし、あの語り口はいまだに記憶に残っているところです。
編者の京須さんはソニーミュージック社で落語の録音をされていたようで、志ん朝さんはそういった記録を嫌っていた中、ただ一人録音を許されて実施したそうです。
この本はその落語の音源から活字化したもので、シリーズ6冊が刊行された中の「男と女」編です。
男女の仲を扱った落語を収録しています。
江戸時代の落語では、男女の仲の話というと、どうしても「廓噺」(くるわばなし)という、吉原などの遊郭を取り扱ったものが主となります。
この本でも「明烏」「品川心中」や「お直し」「文違い」といったものが収められています。
私の好きなものでは「崇徳院」がありますが、これは上方噺を江戸に移したものだそうです。地名など修正をしてあります。
なお、録音から活字化したのはどなたかとは明記してありませんが、江戸の言葉をできるだけ字にしたいということで、カタカナやフリガナなどを駆使してその味を伝えようとしています。
毎日(まいんち)毎日(まいんち)家(うち)イ閉じこもって本ばかり読んでんだよ。
(カッコ内は振り仮名)
といった調子で、かつて聞いた覚えのある江戸言葉の落語が耳に蘇るような感覚になります。
「他人」にも「しと」と振り仮名が振ってあり、そういう言葉も聞いたなと感じます。
バブル崩壊以降の社会の変化で、こういった落語の世界の人情というものも相当変わってしまったようにも感じます。
もはやその記憶の残るのも我らのような中高年だけでしょうか。
せめて、落語でも楽しみながら今は亡き日々に思いを馳せましょうか。