「ブナ帯」という、ブナやミズナラといった木々が自然に生育する地域は、東北地方から中部山岳地帯まで日本の東北部に広く分布しています。
日本の植生を「照葉樹林帯」と呼ぶことが多いのですが、これはあくまでも西日本から関東沿岸部までであり、ブナ帯という地域とは明らかに違いがあります。
照葉樹林帯といっても、すでのその原始林が広く残っている所はありませんが、この気候は水田稲作にも適していたために、古い時代から切り払われて水田化が進みました。
一方、ブナ林帯はかつてのイネ品種には栽培不適だったために、かなり遅い時期まで水田稲作ではない独自の農業を行なっていました。
日本では照葉樹林帯文化が圧倒したためにブナ帯文化は傍流のように感じますが、実は世界的にはブナ帯という地域の方が多く、ヨーロッパ北西部、北アメリカ北東部がそれにあたり、現在の先進地域が含まれているようです。
とはいえ、日本ではややその意味が変わり、縄文時代ではブナ林帯が先進していたのですが、その後の古墳時代以降は照葉樹林帯が圧倒してしまいました。
奥州でブナ帯文化の流を汲み最後に栄えたのが平安時代の藤原氏でしたが、その滅亡とともに日本中心部の文化に組み入れられて僻地とされてしまいました。
本書の後半はブナ帯特有の産物、生活様式等の紹介に当てられています。
どうやら、これまでなんとなく「山の生活」として捉えてきたものは実は「ブナ帯特有の生活」であったようです。
水田というものもほとんど「イネ」を育てるところという感覚ですが、これも近代までの長い期間、東北地方や中部山岳地帯では「田ビエ」を栽培するのが普通だったそうです。
ヒエにもやはり「畑」と「田」の種別があり、広い範囲でヒエを栽培していたようです。
現在でも稲田では「雑草」としてヒエが自生しておりそれを取り除くのに苦労していますが、これもそのような環境であることの証ということです。
多様な日本というものをもっと意識して考えていくべきだということを改めて教えられたようです。