何か、非常に軽い感じの題名ですが、中身は非常に真面目なもので、公認会計士の前川さんが昨今の社会を騒がせた企業の問題を、発表された会計報告のみを題材として分析し推理するという、企業会計に興味を持つ人、(もちろん会社勤めの人は皆興味を持っていても良いはずですが)に向いた読み物となっています。
全ての株式上場企業には、毎年の決算報告を公表することが義務付けられています。
事業内容や設備状況、営業状況といったものが記載された有価証券報告書を金融庁に提出することとなっていますが、その中に本書で取り上げられている3つの決算書、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書が含まれています。
これらは、誰でも参照することができ、その企業の内情をまったく知らなくてもかなりの中身を推測することが可能というものです。
本書では、ソニー、大塚家具、コジマ電気、日産、キーエンス、スカイマーク、江守グループホールディングス、東芝という、本書発行の2015年にかなりの話題となった企業を取り上げています。(現在でも話題が続いている会社もあります)
ソニーの損益計算書は、会計士の目から見ても非常に歪なものになっています。
税引前利益が397億円であるにも関わらず、法人税が887億円、つまり利益を上回る税金を払っています。
これは、ソニーの子会社の構成に特徴があるためであり、100%株式保有の子会社と一部保有の子会社があるのですが、一部保有の子会社の業績が良いためにこのようになっているようです。
そして、その特に業績の良い子会社というのが、ソニー銀行、ソニー生命等の金融関係会社でした。
つまり、ソニーは従来の電気関係の会社ではほとんど黒字が出せず、金融会社でほとんどを稼ぐ会社になってしまったということです。
こういった事情は、キャッシュ・フロー計算書を見たほうがはっきりするそうです。
大塚家具では、元社長の父親と現社長の娘とが骨肉の争いをしたということでワイドショーでも扱われるような騒ぎになりました。
これも同社の決算書を読んでいくとその背景が分かるそうです。
大塚家具は高級路線を続けそれを会員に売るというスタイルでかつては好調であったのですが、不景気な世の中になるとそれが仇となり業績悪化を続けました。
しかし、父親の勝久氏が社長であった頃には売上減少で利益が減っても正社員数がほとんど減らなかったことが分かります。
つまり、業績が悪化するとすぐに正社員を切ってパート化するといったタイプの経営者では無かったということです。
さらに勝久氏は売れる家具だけを仕入れてすぐに売り切るといったことをしなかったために、在庫量が非常に多くなっていたそうです。
そういった言わば古いタイプの経営であったために業績が悪化しました。
それを引き継いだ娘の久美子氏は従業員の削減と在庫減少に取り組みました。
その結果赤字削減にはなったのですが、企業としての力は無くなったと父親は判断し、お家騒動となったということです。
日本の企業社会の縮図のような事情があったことが分かります。
今も混乱収集の道筋が見えない東芝ですが、2015年夏に不正会計が発覚しました。
大掛かりな粉飾決算が会社ぐるみで行われていたことが分かりました。
その手口は、著者のような公認会計士にとってもショッキングであったということです。
そこには「工事進行基準」の悪用という手法が使われていました。
現行の会計基準では、収益の確定というのは商品が顧客に引き渡されて支払いを受けたことにより認識されます。
しかし、それでは長期の工期がかかるような大型工事等の場合では大変なことになります。
例えば4年間の工期の建設工事で総額100億円の工事だった場合、1年目から3年目までは収益がゼロ、4年目に100億円一挙に売上ということになります。
それでは企業状態の正確な反映にはならないとして、特例の取扱いをするというのが、「工事進行基準」というものです。
それは、工事の進行状況に照らして未だ支払いを受けていないものでも年割にして計算してしまうというものです。
ただし、この実施に当たっては不確定なものを確定したかのように計算しなければならず、かなり恣意的な部分も含まれてしまいます。
その点を上手く使って(悪用して)粉飾決算を行なったのが東芝でした。
ソフトウェア開発業務という、外からはその進捗度が分かりにくい事業で不適切な計算を行いました。
各年度において過大な収益が上げられるように見せかけ、残工事の見積もりを過小にするということで、専門の会計監査人であっても見抜くことはできないものでした。
これで1500億円の過大な利益をあるように見せかけたということです。
他にも東芝が使った手法は色々とあるようですが、この結果会社存続も危うい事態になってしまいました。
私も会社在籍時は毎年の決算報告書など何の興味も持たなかったのですが、今思えばここをしっかり考えなかったことが最大の問題だったのでしょう。
気がつくのが遅かった。