人間の知性を測る方法としては、知能指数(IQ)がありますが、これは知性のごく一部のみを測っているにすぎないものです。
すくなくとも心理の働きとしては、感情と理性とがあるはずですが、その両方をつなぎ合わせるものとして、感情知性(emotional inteligence)というものが注目されるようになってきています。
現在、世界の心理学会ではEIについて様々な研究や応用が為されつつありますが、しかしそのEIというものが本当は何を意味するのかといった基本がきちんと議論を尽くされているとは言えない状況のようです。
本書はそういったEIをめぐる研究や議論の現状を整理して示すことで今後の発展を期するというものです。
そのため、編者の他に数名のEI研究者がそれぞれの専門分野の解説をしています。
EIというものの概念というものもはっきりと整理されているとは言えないようです。
IQの概念に含まれる言語的能力や論理数学的能力等の他に、対他的な能力(他者の感情や意図の理解能力)、対自的能力(自分の心的状態の確知、識別の能力)など人の心の全体的な賢さと言えるものがそれです。
また、知能論者スタンバーグは人の知能というものが分析的能力、創造的能力、実践的能力からなるとしていますが、その実践的能力というものがEI的なものであろうということです。
ただし、EI的能力ということについても、研究者の中で変遷が起きておりいまだ決まってはいないようです。
EIが能力であるというならば、それを測る方法というものがあるはずであり、色々と考えられています。
パフォーマンス法と自己評定法とがあるようですが、パフォーマンス法は日本ではまだ開発されていません。
自己評定法というものは、古くから性格検査に用いられてきたものと同様の手法で行われるようです。
こういった評価でEIが高いとされる人たちは、一言で言えば外向性、開放性であり、感情を動かした事物に対しての記憶が優れ、学業成績とも相関するようです。
EIはIQと異なり適切な方法で上昇させることができるようです。
小学生や中学生に対して、実験的なプログラム実施を行なっており感情のコントロールといった方向で向上することがあるようです。
また、こういった面で非常に問題のあるのが非行傾向のある青少年ですが、そういった人々に対する教育も研究されています。
ただし、やはりEI測定という方法には客観性の維持ということが問題となるようで、その方法論自体にまだ問題が残っているようです。
この本の記述は研究者それぞれの考えを示しているのでしょうが、やはりまだ発展途上の学問であるという印象が強いものでした。
IQだけでは人間の能力が測れないということは間違いのないことでしょうが、それを補う評価法としてEIが使えるようになるのかどうか、まだ分からないというところでしょうか。
本当のかしこさとは何か:感情知性(EI)を育む心理学 (心理学叢書)
- 作者: 日本心理学会,箱田 裕司,遠藤 利彦
- 出版社/メーカー: 誠信書房
- 発売日: 2015/02/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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