爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「なぜ大国は衰退するのか」グレン・ハバード、ティム・ケイン著

大国の興亡というものについては、これまでも様々な人々によって分析され記述されてきました。

この本はアメリカの二人の経済学者が、歴史上および現代の大国の興亡を、行動経済学、制度経済学、政治学の知見をもとに読み解き、経済的不均衡が文明を崩壊させ、経済的な衰退が制度の停滞により引き起こされたことを明らかにしたものです。

 

取り上げられている国は、古代ローマ帝国、明朝中国、スペイン帝国オスマン・トルコ帝国、日本、大英帝国、ユーロ圏、現代カリフォルニア州、そして米国です。

 

ポール・ケネディの大著、「大国の興亡」を出発点としていますが、その主張の「帝国の拡大しすぎが衰退の原因」という結論は否定し、経済の不均衡を解決できない国家の政治的停滞が衰退の真因であるということを述べています。

 

例えば、古代ローマ帝国では、経済的不均衡は財政面・金融面・規制面にあらわれており、政治的な原因として福祉国家の拡大、中央集権化した統治、軍事独裁が関わっていたとしています。

 

日本についての分析は、1994年に転換点を迎え、財政面・構造面での経済的不均衡があり、政治的原因としては、特定利益集団や中央集権的官僚制に比べて民主制が脆弱なこととあります。(これは当たっているか)

また、新重商主義を経済成長策とするヒューリスティック、大規模な銀行や企業による損失回避が行動面での機能不全であったとしています。

 

もちろん、アメリカについての分析がこの本の主題ですが、アメリカの政府財政はすでに長期の負債超過で機能不全に陥っています。

これは、歴史的に戦争を理由とした財政赤字拡大というのが主因であったものが、最近の赤字は「エンタイトルメント支出」であると言っています。

このエンタイトルメント支出というのは、容易に削減できる裁量支出とは異なり、公的医療保険や扶助制度、社会保障費といった簡単には削減できない性質のものを指します。

これが財政を圧迫する限り赤字脱出は難しいものです。

 

しかし、著者は民主制が機能する限りはアメリカが再生するだろうという希望を抱いています。

経済の問題もまず、憲法の原則に立ち返ることで政治を正し、難題を解決することで再び比類なき経済大国に導ける経済成長を成し遂げられるだろうとしています。

 

このような夢を抱くのが本当に必要なことなんでしょうか。

 

なぜ大国は衰退するのか ―古代ローマから現代まで

なぜ大国は衰退するのか ―古代ローマから現代まで