「日経トレンディ」という月刊誌で連載されていた「ヒットの軌跡」というヒット商品開発の話を18編まとめて1冊の本にしたというものです。
ヒット商品なるものには、中には単に上手いCMで売ったとか言うものもあるようですが、ここで取り上げられているのは誰でも納得の高品質、新技術があり、さらにそれを何とか商品にしようという熱意ありという、正真正銘のヒット商品ばかりとお見受けしました。
中にはあまり知らないものもありましたが、多くは名前もその売り物の新機軸もよく知っているものであり、その開発経緯を知ることができるということは、現役のビジネスマンにとっては大いに参考になることでしょう。
引退組の私にとっても、実利は無いものの興味深く読めるものでした。
味の素冷凍食品が発売した、「油・水なしで焼けるギョウザ」は大々的に宣伝もしているのでよく知っている(ただし買ったことはないけど)ものです。
味の素は、もともと冷食ギョウザではトップ企業ですが、その座を守るのではなくさらに新商品を開発しようという意欲を持っていること自体すばらしいことです。
主力商品である冷食ギョウザの改良の方向性を探ろうと、消費者を招いて実際に作ってもらい意見を聞くという機会を設けたそうですが、そこでの一般消費者の行動を見て開発者たちは大きな衝撃を受けます。
「主婦たちの中には、パッケージに書いてある調理法の通りに作る人が誰もいなかった」
特にギョウザ調理にもっとも重要である「加える水の量」に注意を払う人は居らず、皆目分量でざっと水を入れるだけ。多すぎて軟らかくしてしまったり、少なくて焦がしたり。
これを見て、味の素開発陣はそもそも水を加えるということ自体を変えるという発想に至ったそうです。
「誰も失敗せずにおいしく食べていただくには水を不要にするしかない」ということです。
しかし、さすがの味の素技術陣も、その前の「油不要」のギョウザは容易に開発できましたが、「水不要」はかなりの難しさであったようです。
ギョウザ調理における水の役割と言うのは重要で、蒸気となって中身の具を蒸すことであり、そのために水分量や沸騰するタイミングが微妙になります。
さらに、家庭によりフライパンの種類や火力の強さも様々であり、どんな条件でも同様にできるというのは厳しい条件であったようです。
さらに新発売に当たっては広告宣伝と店頭での活動も連動させ一気に市場浸透を図ったとか。
もう一点取り上げたいのは「鍋キューブ」
これも味の素なんですが、別に味の素に贔屓をしているわけではないのですが、その開発力はさすがと思います。
鍋料理の調味料として、レトルト状態の液体の製品が多数の企業から発売されるようになりましたが、毎回使い切りで量の調節ができないといった不満があるということが分かりました。
そこで、「固形コンソメ」では1962年から発売している実績を持つ味の素が固形状の鍋つゆと言うものに挑戦したわけです。
製品のイメージというものはできたものの、鍋つゆの素の固形化と言うものはそれほど簡単ではなかったようです。
コンソメで長い経験があるとはいえ、鍋つゆははるかに複雑な配合でありそれを形にするのは難しいことでした。
また小さなキューブ状にするということは濃縮のきかない成分がそれほど入れられないと言うことでもあり、どのように味を作り上げるかも相当大変なことだったようです。
一番苦労したのはキムチ風味だったとか。
思い切った製品設計であったため、パッケージデザインも既製品とはまったく異なる方向性を出すものとなり、社内の反論も大きかったのですが、何とかまとめ上げました。
各所にわたる強い開発姿勢があればこそ製品になったものと言えます。
他のヒット商品もそれぞれ深い意味を感じさせるものでした。
会社勤めをしていた頃は新製品開発といったことにも関わっていましたが、この本に出ているようなヒットする新商品などという方向にはまったく持っていけないような会社でしたので、大したものはできませんでした。
こういう会社でそのような仕事に就いていたら楽しく仕事ができただろうなと、今更ながら思います。