講談社現代新書で「新書東洋史」というシリーズで発売されたものの第9巻で、中東を扱ったものです。
1977年出版ということで、実に40年までの本であり現在までには相当な変化もあったと思います。
この時期はまだまだ西アジアと言う地域についての日本人の認識は乏しいものでした。
それが、直前に石油危機というものが起き、実際に中東からの輸入石油が高騰したということで、ようやく日本とのつながりも実感されたという段階だったのでしょう。
本書題名の副題にもあるように「聖書とコーラン」実に現在の世界の大宗教の2つはこの地域に発祥します。
また、いわゆる古代の四大文明のうち2つ、メソポタミアとエジプト(アフリカですが文明圏ではここに入ります。なお、インダスも関係が深いものです)もこの地域です。
西アジアと言う地域は、東はイラン高原から西はエジプトまで、北はアナトリアから南はアラビア半島までとしています。
ただし、時代によっては西北インド、バルカン半島の一部まで含みました。
この地域の真中には東西を二分するようにザグロス山脈がそびえています。
3000m級の山々の連なるこの山脈の東はイラン高原、西はメソポタミアと別れており、歴史上でもこの境目は大きな意味を持ってきました。
メソポタミアでは今から9000年前に定住して農業を行なった遺跡が発見されていますが、それが文明化していたかどうかは分かりません。
5000年前になり、シュメル人が文字を作り出したことにより、ようやく文明の証拠が出揃いました。
この文明が各地に伝わり、エジプトやインダス、黄河の文明に影響を与えたと見られます。(このあたり、新しい発見ではそれより遡る文明も各地にあったようですが、本書の時点ではこう判断されました)
その後、統一王朝から、大帝国と発展していきます。
その傍らで、少民族のイスラエル人がユダヤ教を作り出します。それはその後キリスト教の発生を促します。
さらに、その影響下にアラビア人がイスラム教を作り出します。それが現在に至るまで世界中に広まってしまいました。
アケメネス朝ペルシア帝国、アレキサンダーによるヘレニズムと、まさに当時の世界帝国と呼ぶにふさわしい国が作られました。
その後はローマ帝国の発展で重心がヨーロッパに移ったかのように見えますが、実際は中東に大きな力が存在していました。
イスラム教の発生と、イスラム帝国の発展と言うのも西アジア一帯の大きなニュースだったようです。
ウマイヤ朝、アッバス朝と続き、モンゴルの支配の後は最大の帝国であったオスマン・トルコが続きます。
しかし、ちょうどヨーロッパの強国の隆盛時期にあたりオスマン・トルコが凋落、周辺部を次々と植民地として奪われることになっていましました。
どういった偶然なのか、石油の大産出地がこの地域であるということから、現代の世界の動きの震源地ともなっています。
これだけの大きな意味を持つ地域の歴史を新書版でまとめるという、大変な本です。一冊読むだけで知ったつもりになれるとは言えませんが、入門には最適でした。