吟醸酒というと、日本酒の高級なものといったイメージでしょうが、実際は正確な定義で決まっており、精米歩合が吟醸酒では60%以下、大吟醸で50%以下というものです。
精米歩合というのは、原料米を精米した時の歩留まりで、60%と言えば元の米の40%は捨ててしまうということになります。したがって、米の外側のタンパク質などが含まれた部分は取り去り、中心部の糖質部分だけで醸造することになるため、特別な吟醸香という香りが着くという性質があります。
この本は1997年の出版で、その頃にはかなり吟醸酒などの高級日本酒というものの認知度もあがってきた頃でした。
しかし、そのような傾向になったのはさほど古いことではなく、かつては物好きの道楽のように見られていた時期もあったのです。
著者はそういった昭和40年代に吟醸酒というものに触れる機会があり、それに惚れ込み、周囲の人たちも巻き込んで行ったという、吟醸酒ブームの火付け役のような人だそうです。
実は、酒造関係者というわけではなく、建築家で酒造会社の蔵の建築や補修などを請け負って仕事をしていた関係で、酒造会社の秘蔵の酒というものを飲む機会もあり、そこで吟醸酒を発見したということです。
その後、吟醸酒を楽しむ会というものを1975年に立ち上げファンを増やす活動をされてきました。
本書はそういった背景から、吟醸酒というものが無に等しい状況から徐々に拡大し市民権を獲得し、さらに広がりを見せるといった状況を非常に細かく記述されており、プロが書くより相応しかったかもしれません。
歴史的なことはとても一言でまとめられるものではなく、できれば本書を見ていただきたいところです。
この本が出版されてからすでに20年が経過しており、吟醸酒などの高級日本酒はある程度の市場の賑わいがある一方、普通酒という領域では果のない縮小が続いているようです。
まあ、元々日本酒というものは、安いものではなく、誰でもふんだんに飲めるわけでもなかったのですから、本来の姿に戻っているのでしょう。
ただし、この本の記述はやや過剰で贔屓の引き倒しという面もなきにしもあらずというところが見えます。