爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「デフレの正体 経済は〈人口の波〉で動く」藻谷浩介著

経済学者ではなくエコノミストですが、なかなか面白い見方をされている藻谷さんの、やや以前の2010年出版の本です。

 

一言でいえば(とあとがきに書いてあります)この本に書かれていることは、

経済を動かしているのは、景気の波ではなくて人口の波、つまり生産年齢人口=現役世代の数の増減だ。

ということです。

当然のように、これは通常の経済人の常識と大きく異なりますので、出版後には相当な反発も受けたようです。

 

また、本書記述もその主張を裏付けるための根拠を証拠とともに示すということが主になりますので、私のようにこういった主張がすぐに頭に入るような者にとっては、ややくどく感じるものでもありました。

しかし、ガチガチの経済人にとっては何度読んでも頭に入らない(入れたくない)ものかもしれません。

 

 

日本経済は停滞していると言われています。

それは、中国などとの国際競争に負けたからであるというのが通説ですが、それは違うということです。

自動車の国内販売台数が減少しているのは事実ですが、それを「若者の車離れ」などと解釈しています。

自動車会社の人も言っているように「外国での車販売は景気に連動するが、日本国内販売は景気に全然連動しない」ということです。

 

実は他の数値を見ても同様です。関係ないように見えるかもしれませんが、小売販売額だけでなく、国内輸送量や一人あたり水道使用量まで減少しています。

これらの数値は、本当は関係している日本人の数が非常に多い(ほとんどすべて)数字です。

これらの数字を問題にせず、景気を論じるのに使っているのは「有効求人倍率」や「失業率」の数値なのですが、これらは実は日本人全体のほんの数%にしか関わりません。

 

また、地域間格差ということが強く言われていますが、これも実際の数字を検討してみると、まったく違う印象を得ることができます。

「県民所得」などという、マクロ指標を使えば地方は非常に低いから経済が停滞していると見られるのですが、小売販売額や個人課税対象所得額といった、実数を扱う指標を見てみると、意外に地方の方が堅調で、逆に東京都市圏の方が危ないというところが見えてきます。

とはいえ、青森県の例を見ても地方はやはり相当衰退しています。ただし、それが「首都圏の成長」につながっているのかと言えばそうではなく、東京などの状況はさらに危険であると言えるようです。

 

これは、結局は地域間格差などで説明できる話ではなく、日本全体が内需不足に陥っているということなのです。

 

その理由としては、「現役世代の減少」が一番関与しているというのがこの本の主張です。

総人口と生産年齢人口(15-64歳)の動向を詳しく見ていけばそれが理解できます。

地方はその両方が大きく減少しているのは確かです。そのために内需が大きく落ち込み経済も衰退しています。

しかし、首都圏にその生産年齢の現役世代が流れ込み、増加しているかというとそうではありません。

2000年から2005年の間に、現役世代と総人口がどのように増減したのか。

実数で現役世代減少がもっとも多かったのは大阪府だったそうです。その次が北海道、次が埼玉、兵庫、千葉と続きます。実は都市部でも現役世代は減っているのです。

東京はかろうじて現役世代が1万人増加しました。しかし、その期間に実は高齢者は39万人増加しているのです。

 

その後、さらに団塊世代の高齢化が進み、現役世代に対する高齢者の増加はより激化しています。

それが、特に首都圏で大きいということです。

 

このような、消費力旺盛な現役世代がどんどんと減っていることが内需縮小の原因であり、一見好景気と見えても本格的に回復しない要因なのです。

 

人口減少は紛れもない事実ですから、その対策というのも考えられています。

しかし、それらも大きく的外れというものが多いようです。

 

人口減少は生産性上昇で補えるという思い込みも強いようです。

しかし、「生産性」というものが「付加価値額」を「労働者数」で割ったものであるということを忘れているため、生産性を上げるために労働者を減らすと言った本末転倒の対応がなされてしまいます。

本来は、付加価値額を多く上げる産業が育成されることが、内需拡大につながるはずです。

しかし、付加価値額が多い産業というものが何かを間違えています。サービス業(労働者数が多い)が一番付加価値額が多く、自動車などのハイテク産業は逆に低いのです。

 

生産性向上のために労働者減少、労働時間延長といった方向に走る場合もあります。

しかし、その「労働時間」というものは、その労働者にとってみれば決まった「総時間」から生活のための時間や、そして一番重要な「消費のための時間」を引いたものなのです。

労働時間が延長されれば「消費の時間」は削られます。いくら金を稼いでも使う時間がないということにもなりかねません。事実、高収入労働者はこういった状況になっているようです。

 

人口が減っているのだから「出生率上昇」という直接の対策をしようという人も居ます。

しかし、これは今日取り掛かったとしても効果が出るのは遥かに後の話です。とても間に合いません。

また、「外国人労働者受け入れ」で乗り切ろうという話も出ます。

団塊世代の労働者だけでも1000万人以上います。これを乗り切るためにそれだけの外国人労働者を受け入れることができるでしょうか。まったく桁が違う話です。

 

実は人口減少はアジア全体の話です。日本になど来てくれる労働者は居なくなるかもしれません。

中国でも上海では出生率が0.65、日本よりはるかに低い値になっています。

インドはまだ減少に向かっていないように見えますが、これも今後は減少するでしょう。

 

著者が提唱する対策は次のものです。

☆高齢富裕層から若者への所得移転を進める。

高齢者といっても貧困層は別です。富裕層は使いみちがなく貯め込んでいます。これを使わせる方向に持っていくことが重要です。

☆女性の就労と経営参加を進める。

専業主婦の4割が働けば団塊世代労働者の退職を補えるそうです。

外国人労働者ではなく、観光客増加を目指す。

国内で消費する人を増やすということです。

 

こう見てみると、書いてある内容にはまったく間違いなく見えるのですが、これでも普通の経済人(学者、エコノミスト、財界人)にはまったく受け入れられないもののようです。

それが不思議。

 

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

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