FOOCOM.NETで、栄養疫学研究者の児林さんが、「効果的なフレイルティ予防食は?」という題目でまとめた研究を紹介し、「栄養疫学」という学問自体の説明をしています。
栄養疫学とは、一言で言えば(言っちゃって良いのかな)「人がどのような栄養を摂っているのかを広範囲に調べ、その人たちの状況をまとめて、栄養摂取と健康状態の関係をつかむ」ということ(だと私は理解しています)ですが、今回紹介された研究では、高齢女性の食生活を調べ、その人たちのフレイルティ(虚弱)の状況と食習慣との間に何か関係がないかを探ったものです。
高齢女性2100人余りの調査を実施しています。
この調査の結果では、「タンパク質をよく摂る人」と、「抗酸化食品をよく摂る人」はいずれもフレイルティの症状を示す人は少ないのですが、「タンパク質と抗酸化食品をよく摂る人」はその割合がさらに少ないということが分かりました。
これだけの調査を実施し、一応筋の通った結果が得られれば、健康食品メーカーなどでしたら大喜びで大々的に発表しCMに使うでしょうが、栄養疫学研究者はそうはいかないそうです。
疫学研究には欠点を述べる謙虚な姿勢がある
と、疫学研究の成果報告の際には必ず付けるべき研究の欠点の報告を紹介しています。
この研究の場合は、最大の問題点は食品の摂取の状況と、フレイルティなどの身体状況の調査を同時にやっているということです。
これを「横断研究」と呼ぶそうですが、この手法ではそれぞれの事例が関連していることがわかっても、どちらが原因でどちらが結果かという因果関係が判別できないという欠点があります。
もしも、因果関係を知りたいとなれば、もっと時間のかかる「コホート研究」という手法を実施する必要があります。
それを実施してみれば、もう少しは因果関係の有無について語れるかもしれません。(それでも完全ではありません)
疫学研究というのはそのような欠点も抱えている手法ですが、それでも個々の事例だけを追うような研究とは異なり広い範囲の状況をまとめるという大きな利点があります。
疫学研究者は、常に論文の中で自分たちの研究の欠点を正直に述べ、研究結果に謙虚に向かい合っているのです。
情報を伝える方々には、研究者たちが丁寧に記述しているこの「研究の限界点」も十分に考慮して伝えていただきたいなあとも思います。
ただし、疫学研究の成果を見て良いところだけをつまみ食いして報道するような事例も数多いのですが、児林さんは上記のようにも述べてそれを危惧されています。
ともすれば、健康食品の食い物にもされかねない研究分野です。警戒せざるを得ないのもごもっともです。
しかし、栄養疫学というものの可能性も非常に大きいものと感じることができました。