兵法と言ってもいろいろな種類のものがあるのでしょうが、ここでは主に中国の古代の戦国時代に成立したものと、その後それから派生したものを扱っています。
本書は、兵法書と兵法家、そしてその内容をコンパクトにまとめて記しており、兵法というものを概観するには手頃なものかもしれません。
兵法というとやはり「孫子」でしょうか。
春秋時代の末期に呉に仕えたと言われる孫武の兵法と言われていますが、実際は誰が書いたか明らかではありません。
また、孫武の子孫と言われる戦国時代の孫臏の兵法を指すこともあるようです。
戦国時代の魏に仕えた呉起の「呉子」も有名ですが、これも誰が書いたかはわかりません。
他にも有名な将軍や軍師といった人々の名で書かれたものも数多くありますが、黄帝や太公望、管仲といった名前を借りていても実際にまとめられたのは戦国時代以降であり、どれほど当時の事情を取り入れているかは疑問です。
兵法といっても、戦術の記載だけに留まらず、国の治世から臣下の統率等、さまざまな面の記述が含まれているのが普通で、総合的に国力を上げて他を圧倒するという思想が見えてきます。
よく知られている言葉ですが、孫子の「兵は国の大事にして死生の地、存亡の道なり」とか、呉子の「内に文徳を修め、外に武備を治む」といったものはそれを表しています。
なお本書後半には実際に繰り広げられた戦いの数々の経過も述べられていますが、これらの戦いがあったことはおそらく間違いのないことでしょうが、どこまで兵法というものを応用していたのでしょうか。
「生兵法は怪我の元」という言葉どおり、兵法に通じていたとされた戦国時代の趙の趙括がそれで秦に大敗した長平の戦いというものを見ると、兵法の意識も強かったであろうし、それに頼った人々の失敗も数々あったであろうとは思えます。
兵法というものを歴史を通して見ていくということも面白いことですが、それ以上に兵法家にとどまらず様々な思想を生み出した中国の戦国時代というものの面白さの方をより強く感じてしまいました。