今だに日本経済はバブルの影響から抜け出せないようにも感じられますが、ではバブルとはどういうものだったのかと言うと、はっきりとは分かっていないようにも思います。
この本は日本経済新聞で証券部の記者からスタートし経済界を見てきた著者が、バブルの時代にはどのようなことが起きていたのかを記しているもので、中には当時は記事にできなかったことも含まれているようです。
様々な人名、会社名が出てきますが、その当時は聞いた覚えがあったものの正確な内容は知ることもないままでした。
山一證券、真藤恒、営業特金、財テク、藤波孝生、江副浩正等々、改めてこういった人々が様々な業界、企業で何をやっていたのか分かった気も少しします。
バブル崩壊後のあまりにも長い低迷?のためか、バブル時代に郷愁のようなものを感じる人も居るようですが、これがどのようなものだったのか、見直してみる価値はありそうです。
なお、私自身はこの時期はちょうど子供が産まれ子育てで精一杯、給料も安くほとんど貯蓄もない時代でしたので、バブルの恩恵などまったく感じることもなく過ごしていました。
知人の中には株で儲けた者も居るという噂は聞いたことがありましたが、ほぼ無縁の状態でした。
バブルの時代と言えば1985年のプラザ合意あたりから急激な株と土地の暴騰が始まり、89年末に株の最高値を付けた後急落、土地も1年ほど遅れて急落するまでの時期でしょうが、本書はその少し前、バブルの胎動といった時期から語り始めます。
三光汽船によるジャパンライン株買い占めという問題が起きたのは1970年9月からのことでした。
本書はこれがそれまでの戦後日本の復興と高度経済成長を支えた日本独自の経済システムが崩壊し、バブルをもたらした時代の到来の胎動であるとしています。
しかし、この問題自体は日本興業銀行や児玉誉士夫という裏の顔役の活躍で抑え込まれます。
この興銀とアングラ社会のつながりというものはその後のバブル時代の様々な事件に継承されていきます。
ジライン株以外にも70年代には仕手株と呼ばれるグループによる株買い占めとその買い戻しといった株取引の事件が相次ぎました。
その結果、相場師といった人々への風当たりも強くなり日本独特の株式市場も終わることになります。
国際社会では、1971年のアメリカによる金ドル兌換停止宣言(ニクソンショック)からの国際経済の激変が始まります。
固定相場制が放棄され変動相場制となり、円もどんどんと切り上がりました。
さらに73年のオイルショックで石油価格が急上昇します。
こういった情勢のなかで、アメリカにレーガン、イギリスにサッチャーという新自由主義者の政権が誕生します。
しかし、レーガノミクスと呼ばれる経済政策は本来は政府支出を削減し小さな政府を目指すはずですが、実態は社会保障費は削ったものの、軍事費は拡大したために政府支出は増大していきました。
日本でも中曽根内閣が誕生し、規制改革などの政策を推進します。
金融改革などの政策変更の動き、財界でもこれまでの利ざや稼ぎの株買い占めに変わるM&Aの始まりが動き出します。
そして、1985年のプラザ合意がバブルのスタートを告げる号砲となりました。
80年代前半の金融自由化により、資金調達が楽になったためもあり、企業の「財テク」が活発になります。
一方、銀行は収益基盤が弱体化してしまったために、土地取引の融資に活路を見出します。
その結果、株式と土地が空前の高騰を続け、資産価格の値上がりというものを前提とした企業活動が当然視され、堅実な価値観や労働観が失われていきました。
85年からの1年間で、円は1ドル242円から150円まで急騰しました。
この時に市場経済の力で産業構造の転換を行っていれば構造改革も可能でした。
しかし、過度の金融緩和政策を行ったことで産業界はそのような構造転換の努力に向かうことなく、ほとんどの企業は不動産投資に向かってしまいます。
これがさらにバブルの痛みを大きくしてしまいました。
永田ファンドとか、阪和興業とか、EIEなど、かつて聞いたような気もする企業名が飛び交います。
かなり怪しいことも横行していたようで、それに大企業も巻き込まれていきます。
このようなバブルの責任は銀行による土地本位制にありますが、同時に株式の持ち合いを通じて銀行を補完してきた証券会社にもありそうです。
1989年12月の大納会で史上最高値の38915円を付けた日経平均株価ですが、翌年早々に急落し10月には2万円割れまで低下しました。
土地価格の急落はやや遅れたものの、1992年には10%以上の下落、その後も低下が続きます。
その年の10月、大手銀行21行の不良債権総額は12兆と発表されました。
バブルというものが戦後の高度成長のもたらした必然であるということですから、どうしても到来はしたのでしょうが、ここまで破壊的な結果を残したというのはやはり政策の不備が大きかったのでしょう。
このような過ちは二度と起こさないように総括する必要があるのでしょうが、正に現在はバブルを起こして幻の景気浮揚を起こす政策にのめり込んでいます。
何度痛い目を見てもわからないのがこの国民性なんでしょう。