著者は数多くの本を書いていらっしゃいますが、本業は精神科医です。
精神科医というのは患者に話をさせてその病状を判断するというのが重要な診断法ですので、患者が「安心して話す」ことができなければ、診察にもならないのですが、やはり色々と注意点はあるようです。
それを参考にすれば医者以外でも「話しやすい人」と見られることは大いに役立つはずです。
そのために書かれたこの本は非常に易しい語り口です。
まず、「上手に話す」ことは必要ないということです。上手に話すことよりは、相手が触れられたくない話題に触れないということの方が重要です。
その話題を出すことで「相手が傷ついている」ということにも、気づかない人は困ったものです。
その話題を出すことでついつい相手を傷つけてしまうということがあります。
著者は東大理三に現役合格したという秀才ですが、このことを持ち出せば大抵の人は感心してくれることはなく、反発することが多いようです。
もしも、著者が「サッカーの代表選手に選ばれた」(嘘ですが)と話せば多くの人が「すごい」と思うでしょう。
他にもいろいろな才能で話をすれば素直に尊敬されるものもあるのですが、学歴だけはダメです。
また、金儲けの成功体験というのもタブーです。誰もがやってみて失敗している話題はどうもいけないようです。
人の気持ちに関係なく、自分の話ばかりする人がいます。
そうなると、相談したいことがあっても「この人はダメだ」とあきらめてしまいます。
私達が安心して話をできる人というのは、自分が話すことよりまず相手の表情や気持ちに関心を持ってくれる人だということです。
著者のような対話の達人という人でも、時には相手を傷つける失言をしてしまうこともあります。
話した瞬間、相手の顔色がはっきりと変わったことに気づいてしまうことがあります。
そういう時は、やはりなんとかフォローします。
こうすれば、たとえその失言が本音だとしても、相手との関係をこれからも大切にしたいという気持ちがあるということを相手に伝えることになるからです。
しかし、本当は失言をできるだけ避けた方が良いのは当然です。
それには、対話をする時にはできるだけ低姿勢になること。それで失言は減ります。
失言をするというのは、ほとんどの場合「相手を見下す気持ち」から生まれてきます。
どういう場所、どういう相手に対しても丁寧に接する人は失言をすることも少ないでしょう。
少しぐらいなめられてもその方が楽に生きられます。
とは言ってもいつも相手を安心させる話し方ができる人なんてほとんど居ません。
たいていの人は「なぜこの人はこんなにひどい話し方をするんだろう」と思うくらいの話をします。
そんな時は気を取り直し「今日はついていない」と思い、気楽にかまえるのが一番だということです。
やれやれ、非常に分かりやすく書かれた本ですが、読んでいると反省ばかり強いられるものです。