爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

土壌学者の西尾道徳さんが、モンゴメリー「土の文明史」でのキューバの有機農業について誤りを指摘

土壌学者で環境保全型農業ということを説いていらっしゃる西尾道徳さんが、そのサイトの中でワシントン大学教授で地質学が専門のデイヴィッド・モンゴメリーが書いた「土の文明史」という本の中でのキューバの有機農業について触れた部分の誤りを指摘しています。

 

No.321 キューバの「有機農業」がまた誤って宣伝される危険 | 西尾道徳の環境保全型農業レポート

 

ソ連崩壊にともない、キューバへのソ連からの大量の食料補給というものが途絶えてしまい、キューバは食糧危機に直面してしまいました。

また、同時にソ連からの化学肥料輸入も困難になりました。

 

そこで、キューバ政府は「有機農業推進」を強力に推し進め、その結果農業生産性は以前より向上し食料自給が可能となったということになっています。

モンゴメリーの著書でもそういった観点での主張が為されているということです。

 この「土の文明史」という本はかなりの話題を呼んでおり、この記述に影響されている人も出ているようです。

 

 

しかし、西尾さんがデータを挙げて強調しているのは、キューバはその時期に食料輸入が途絶えておらず、また化学肥料輸入も続けられていたということです。

 

ただし、その輸入量はかなり減少したのは間違いなく、その対策として都市での空地の補完的農業が推奨されており、その場では堆肥を使った農業が為されていました。

しかし、その実施面積も少ないものであり、取り立てて話題にすべき規模でもないようです。

 

西尾さんの立場は、「おわりに」の項にも書かれているように、

 

『土の文明史』を著したモントゴメリー教授は地質学の専門家だが,キューバの有機農業についてはあまり情報を収集しておらず,誤った情報に基づいて記述したようである。名著ではあるが,冒頭に紹介したキューバについての記述は誤った情報に基づいて書かれており,これを読んだ読者の間に,再び日本で有機農業だけで世界の食料不足が解決できるといった誤解が復活しないことを望む。

 

「有機農業にすれば食糧不足が解決できる」というのは誤解であるということです。

 

有機農業では生産性は低下するというのは間違いないものでしょう。

世界的に見て農業生産量は十分であり、食糧危機はその分配の不備であるというのが現状ですが、そのような前提などちょっとした条件で崩れるかもしれません。

その際には化学肥料と農薬で少しでも生産量を確保することが必要となるのですが、それすら供給できなくなる事態にはなってほしくないものです。