爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「満州事変はなぜ起きたのか」筒井清忠著

最近読んだ本で、「大東亜戦争では中国と戦端を開いたのが間違い」という指摘を見て目からウロコという感がしたのですが、かと言って実際にそれを避ける方策があったとも思えないがという気もしていました。

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歴史の「もしも」は無いというのが基本ですが、そこに至る経緯というものの中には少しの偶然が左右すれば違う方向に行ったかもというものもあるように感じます。

 

しかし、今回読んだこの本では、日露戦争から満州事変に至るまでの日中その他関係各国の動き、思惑、謀略、等々様々なものが絡み合い、ちょっとどこかを動かしたからと言ってどうしようもない。結局は日中戦争の泥沼に入るしかなかったのだろうという思いを深くしました。

 

 

本書は、日本近現代史がご専門の帝京大学文学部長の筒井さんが、日露戦争後から満州事変勃発までの歴史を詳細に検証されたというもので、生半可な歴史知識しか持たない程度の私にとっては未知の領域の話とも言えるものでした。

 

本書冒頭にも書かれているように、日本の敗戦に終わりその後の進路を既定した日米戦争(太平洋戦争)がどうして起きたかと言えば、日中戦争が直接の原因でした。

そして、日中戦争がなぜ起きたかと言えば、1931年の満州事変がその原因と言えます。

しかし、満州事変がなぜ起きたかということになると、よく分かっていないのではないか。これは著者が見たところ専門の研究者であってもはっきりと整理されていないのではないかということですので、素人はほとんど分かっていないと言えそうです。

そこのところを詳細に歴史をたどり解説をしようとしているのですが、細かい事実などはうろ覚えの身にとっては猫に小判かもしれません。

 

そんなわけで、本書記述が経時的に並べてありますので、それを引用するのみに留めます。

 

対華21か条要求問題

日貨排斥運動

5・4運動

ワシントン会議

排日移民法

国権回収運動

国共合作

北伐・南京事件

済南事件

張作霖爆殺事件

中ソ戦争

満州事変

 

概略を見ての感想だけ。

一時は軍縮にこぎつけたワシントン条約体制ですが、最終的に崩壊させたのは日本の軍事行動であったとはいえ、そこに至るまでの英米・中国の態度もかなりの問題があったようです。

 

本書の最後に記してあるものは、歴史的事実だけでなく著者の日本の行動に対しての感想が含まれていますが、そこには外交・軍事のあちこちにある「未成熟な対応」により国際的な立場をさらに悪化させたということです。

他国の行動も褒められたものではないことが多々あるにも関わらず、それをきちんと指摘する冷静な記者会見などといった方策もなく、日本の行動に対する印象を悪化させていきました。

また、特に軍人に見られたのが、ずさんな謀略事件を起こすことが国際的に日本の立場を悪化させるのだという事実についての認識がまったく希薄であったことです。

張作霖爆殺事件や満州事変といった一部軍人の暴走による謀略事件がすぐに真相が暴かれ国際社会からの印象を極めて下落させました。

さらに、大衆の世論も新聞の煽動により満州事変を熱狂歓呼で迎えるなど、軍人の行動を後押しする圧力となったことも無視できません。ここだけ捉えても戦争責任が一部軍人だけに無いということは明らかでしょう。

 

読み応えのあった本でした。ちょっと有り過ぎたかもしれません。

 

満州事変はなぜ起きたのか (中公選書)

満州事変はなぜ起きたのか (中公選書)