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爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「水危機 ほんとうの話」沖大幹著

東京大学生技研教授という沖さんは、水文学(スイモンガク)研究者を自称して居られます。

 

水文学とは、天文学や人文学と同様に、水に関するすべての事象を扱う学問ということです。

英語では、HYDROLOGYというもので、ユネスコでもその推進が定められているそうです。

(あまり知られていないかな)

 

本書は水に関して様々な方向から話を進めていますが、多くの記述があるもののそのほとんどはこの20年間に新たな知見として得られてものということであり、この分野の変化や進展は非常に大きなものがありそうです。

 

なお、著者あとがきによれば本書は一般人向けに現代の変化を中心に記述したために、文系的な表現が多くなったものの、水文学自体は理系学問としての性質が多いということです。

 

 

 各章は水に関するさまざまな話題を提供していますが、全体をとおした主張というものは無いようなので、各章からそれぞれ興味深いエピソードを引用しておきます。

 

第1章 水惑星の文明

 地球の表層の水のほどんど、96.5%は海洋にあります。その次に多いのが氷で、南極やグリーンランドにあるもの。そして地下水も氷と同じくらいあります。

 地下水のうち特に循環速度が遅いものが化石水と呼ばれます。

 速い速度で循環している水分だけが人間が利用している水ということになりますが、そのうち最も多いのは土壌に含まれる水分だそうです。

 

第2章 水、食料、エネルギー

 食料の生産には大量の水が使われるということで、食料の輸出入を考える上で「仮想水」という考え方が広く知られるようになりました。

 著者はその初期からこういった思考法の普及に関わっており、計算方法などの提唱も行ってきたそうでうす。

 日本では水が少ないから食料を輸入するということはなく、農産に適した平地が少ないからということなので、あまり仮想水の量を云々することは意味が無いそうです。

 

第3章 日本の水と文化

 日本の降水量は季節を問わずに多く、熱帯地方に匹敵するものです。しかし、国民人口が多いために一人あたりの水量と考えるとそれほど多いわけではなくイギリスやイランと同程度とか。

 

第4章 水循環の理(ことわり)

 木を植えると水源涵養機能によって水も豊かになるという印象があります。

しかし、これは「美しい誤解」というもののようです。

まず、木があると水が豊富になるのではなく、水が豊富な場所に木が生えるのです。

木が成長するには多くの水が必要とされ、実際に20世紀後半に中国で大規模に植林をされたら黄河に流れる水量が減少し、断流といって河川流量が無くなる現象が起きてしまいました。

半乾燥地にわざわざ植林するのは百害あって一利なしだそうです。

ポプラなどは地下水にまで根を伸ばして地下水位を下げてしまうこともあるそうです。

 

 都市洪水が最近頻発していますが、これは降水量が増えたからというよりは、住宅や道路が増えて雨水が地中に浸透することがなくすべてが川に排水されるようになり、急激に水位が上がるようになったためです。

 神奈川県の鶴見川の場合、1958年にはわずか10%が都市化面積率であったものが、1995年には85%になりました。そのため、既往最大雨量に対する洪水の到達時間が10時間であったものが3時間にまで短縮されました。そのため、ピーク流量が増加し以前であれば100年に一度の洪水が3年に一度は発生する可能性があるそうです。

 

第5章 水危機の虚実

 水危機といっても、地球から水がなくなってしまうのはおそらく数十億年先の話です。

 ここで水危機というのは、人間に使える真水が無くなるということです。

 それも、水の量が無くなるということではなく、きれいな水が無くなるということです。

 都市に人口があつまれば排出される汚濁物質も増加し、水も汚染されます。

 環境容量を超えて都市に人が集まることが危機です。

 

 しかし、世界人口はどうやら遠からずピークを迎え徐々に減少しそうです。

人口爆発による人類破滅は起きずに済みそうですが、水に関して言えばその供給循環装置の老朽化が問題となります。

これに相応の投資をすることが必要です。

 

 なお、最近北海道などで地下水豊富な森林などを中国など海外企業が買うという動きがあり、水資源の危機と言われることがありますが、いくら土地を買っても水を輸送するのは大変なコストがかかり企業化が成り立つことはあまり考えられません。

 産業が無くて困っているところに海外からでも資本投下がされるのは歓迎すべきことで、過敏に反応することはないと考えられます。

 

第6章 水問題の解決に向けて

 水をきれいにすることが「水を作る」ということです。

民間企業が水ビジネスと言って参入する動きもありますが、その利益は限られたものであまり旨味は大きくないようです。

 

 

水危機 ほんとうの話(新潮選書)

水危機 ほんとうの話(新潮選書)

 

 

水について、間違った思い込みによる誤解がかなりありそうです。