爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「格差と民主主義」ロバート・ライシュ著

著者はクリントン政権で労働長官を勤め、その後はまた大学教授に戻ったという、ライシュ氏です。

彼が、ちょうどオバマが2期目の選挙をしている時期に出版したのが本書です。

 

したがって、本書で厳しく批判されているのは富をすべて集めてしまっているアメリカ富裕層とともに、アメリカ共和党などの「逆進主義者」ということになります。

トランプが政権を取った現在とは状況は異なるかもしれませんが、トランプに期待して投票した白人労働者たちの希望とは違い、おそらく当時と同じことになるのでしょう。

ただし、民主党が政権を取ったとしても労働者たちの環境は改善はしないだろうということは、ライシュの言い分に関わらず確かなことと思います。

 

なお、最後の訳者あとがきには翻訳の雨宮寛さんが「ライシュとピケティ」についても触れています。ピケティの「21世紀の資本」は大きな話題となりましたが、ライシュ教授の本書も同様の話題を扱っています。ただし、富裕層の富の独占を正すためには民主主義の働きが必要としており、その点は価値が大きいとしています。

 

 

本書構成は、金融関係や大企業経営者と言ったいわゆる超富裕層の悪辣さを描いた第1部、そしてそれに協力している共和党を中心とした政治家「逆進主義者」の第2部、そして「私達がしなければならないこと」の第3部となっています。

 

 第1部、大企業経営者や金融機関中枢等の超富裕層たちの悪辣さを描いた部分は、他書でも論じられているところが多い部分であり、よく知られていることかと思います。

例えば、その莫大な報酬は「成功報酬」と言いながら、その企業が赤字であっても平気で巨額のボーナスを獲るとか、ほとんど税金を払わなくても済むように政府に手を回しているとか言うところです。

 

しかし、その手口のうち次の点は目新しく感じた論点でした。

所得税の税率が彼ら超富裕層の平均ではその下の所得区分の人々よりも少なく見えるのですが、それはその収入をキャピタルゲインと見なすことで低税率の所得とできたためです。(実際はどうあれ)

現在の累進課税でも多額の所得があれば相応の税を納めなければならないはずですが、このような逃げ道を作り出しているわけです。

 

実質的には超富裕層のために働いているに等しい共和党議員は国民からの様々な要求に対し論外な理屈をこねています。

共和党の議員ミシェル・バックマンは次のように語りました。

最低賃金制度が廃止されれば失業者を完全になくすことができる」

それは、実は次の論法と同じです。「奴隷制度は完全雇用を実現する制度だ」

 

 

また、共和党議員たちは同性婚、妊娠中絶、婚外子などを激しく批判しそれを擁護するような法制度を廃止しようとしています。

しかし、そのような個人のモラルがアメリカで破綻に瀕しているということはありません。

実際はモラルの崩壊が起きているのは公的分野です。

ここで著者は上手いことを書いています。「問題は寝室ではなく役員室だ」

本当に不道徳なことは、企業の役員室で行われているということです。

 

それを覆い隠したまま、庶民のモラルに批判の目を向けさせ本当の争点をごまかしているのです。

 

 

現状の問題点を暴き、批判するということはよく行われていますが、著者は本書の3部で「ではどうするべきか」ということを提起しています。

 

行動を起こすこと、それもインターネットであれこれ言うだけでなく、実際に人に会って話をすることだそうです。

それも根気よく、あきらめず。

 

民主主義は投票で終わるのではなく、選挙で選ばれた議員たちに声をかけ自分たちの考えを政治に活かすようにさせることだということです。

 

最後の部分は、学者にとどまらずに政権にも参加した著者ならではの提言かもしれません。

 

ロバート・ライシュ 格差と民主主義

ロバート・ライシュ 格差と民主主義