本書著者の森靖雄さんは、学生時代から調査を習得しその後も各所でそういった事業を担当してきた「調査屋」さんで、その後は大学で調査員養成といった活動をされて、本書執筆当時は東邦学園大学教授という方です。
そして、本書の主な想定読者は、大学で地域調査などを専攻する学生さんです。
そのため、その記述は非常に微細なところまでに及び、たとえばp52、「服装はとくに着飾ったり堅苦しい服装で行く必要はありませんが、今流行のわざと汚れたり穴のあいた衣装を着るチープファッションはいけません」
とか、p53「話のなかにしばしばタメ口が出てくると相手は馬鹿にされたり見下されたような気持ちになります。」など、先生が実際に学生を相手に苦労して指導されている様子が見えるようなところまで、しっかりと記述されています。
ここで言う、調査とは、例えば地域の産業の調査や景気の良し悪しなど、実際に現地に出かけて行って住民から聞き取ったりアンケートをしたりというものを指しています。
近年は、悪質業者が調査を騙って住宅に入り込むという被害も頻発しているために、こういった調査も非常にやりにくくなってきているようです。
そのための対策として、自治体や商工会などと連携して行うという話も書かれていますが、逆にこういった人が絡むと嫌がる人も居るということも指摘されています。
調査と言ってもいろいろな段階があります。
まず、関連資料を探す「文献調査」
そして、現場を見てくる「踏査」
次に、話を聞いて実情をつかむ「聞き取り調査」
さらに統計的データを集める「アンケート調査」
そして、得られた結果をまとめ、分析し報告書を書くという各段階にわたって細かく指導するという、まさしく大学生の教科書にふさわしいものになっています。
「アンケートの作成」という点については多くのページを使って細かく記述されています。
これの作り方次第で得られる結果の意味というものが大きく違ってきてしまいます。
多くのことを聞きたいからと言って、何ページにも及ぶアンケートを作ってしまうと調査相手がまともの書く気を失ってしまい回答数が減ってしまいます。
実際にあった例では、アンケート質問用紙を折り返しただけでその裏側は見ずに表だけ書かれて帰ってきた回答が多かったとか。
あくまでもアンケートを受ける側の気持ちになって作らなければ難しいようです。
また、できれば回答者の様々な属性(性別、年齢、職業、収入等々)で結果をまとめ直す「クロス集計」の技法を駆使したほうが結果の解釈がやりやすく、その価値も上がるのですが、こういった属性は個人情報の塊であり、特に昨今はなかなか聞きにくいものになっています。
また収入額など聞いても答えない回答者が多いということもあり、その設問の仕方には工夫が必要なようです。
なお、自治体や政府などが行う「世論調査」にも問題がある設問があるようで、本書にもその例としてある民間団体に委託して中部国際空港建設について地域住民にアンケートを取った事例が載っています。
「設問 中部新空港が常滑沖に建設されるということについて、どのようにお考えになりますか。
1賛成 2必ずしも反対ではない 3反対 4分からないなど」
というものですが、「必ずしも反対ではない」という項目がありながら「必ずしも賛成ではない」という項目は設けられておらず、設定が不正となっています。
また、「誘導質問」というものも頻繁に見られるもので、設問の順番を操作することにより最後の質問の答えが偏るということもよくあるようです。
いまさら、「調査マン」を目指すということもないでしょうが、もしもそうなったらこの本のようにやれば良いのかなと思わせてくれるものでした。